芽摘みの基本
投稿日:2018/04/25 更新日:2021/04/15
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四季のある日本では、多くの植物は春になると活動を始め、初夏の頃まで勢いよく新梢を伸ばします。葉柄の元部分には次の年に伸びる芽(腋芽)が待機していますが、特別なことがない限り眠ったまま先端の枝が伸びていきます。
ところが強風や積雪、落石などによる枝折れの他、病害虫や害獣による食害などで枝が失われると、植物は失った葉を取り戻すために眠っていた腋芽を動かし、新たな葉を出そうとします。
この植物生理を利用したものが芽摘み。春最初に出る芽は、秋から冬の間に蓄えた力の分伸びる力が強いため、それを「抑制」する必要があります。
芽摘みは樹形作りや維持の他、花芽形成にも関係してきますから、その原理や正しい芽摘みの方法を押さえ、盆栽作りに活かしてください。
C o n t e n t s
1. 芽摘みの原理
動物に食べられる宿命の植物は、体のどこを食べられても即座に再生できるように「頂芽優性」という巧妙な性質を備えています。
植物は上へ上へと大きくなると同時に、枝の途中から次々と葉を展開し、その葉腋の全てに側芽を作ります。
側芽は頂芽が盛んに伸びている時は動き出すことはなく、いわゆる休眠芽となって待機しています。
ところが動物などによって柔らかい頂芽が食べられると、眠っていた先端付近の側芽が活動を始め、新たな頂芽として振る舞うようになります。
これは頂芽で作られるオーキシンが、茎を通って下の方へ移動し、側芽の生長を抑制しているということ示していて、頂芽を失っても切り口にオーキシンを与えれば側芽は動きません。
この性質を利用した剪定の一技法に「芽摘み」があり、伸びる枝の成長点を摘み取ることで側芽の動きを促進し、樹が大きくなるのを抑えたり、小枝を増やしたりする効果を期待しています。
芽摘みは広義では剪定と同じ意味合いを持っていますが、新梢の一部分を摘み取ることを限定的に指していて、ある程度伸びた段階で鋏で切り詰めることを「切り戻し剪定」とも言います。
芽摘みと花芽分化
植物学上、花は葉が変化したもので、実は定芽も不定芽も最初から「葉芽」「花芽」と決まっているわけではありません。花芽が多く付くように改良された園芸品種は別ですが、通常花芽は温度や日照時間、栄養状態や一連の植物ホルモン濃度の変化など様々な刺激が要因となって形成されます。
松柏類や葉物類は小枝の充実や樹勢を維持するための芽摘みを行いますが、花や実を観賞する花物類や実物類は、さらに花芽が出来る場所と時期を理解した芽摘みをしないといけません。
樹種によって多少異なりますが、ほとんどの植物の花芽分化の時期は初夏7月~9月頃の間で、新梢の先に花芽を付ける樹種が多いため、いつまでも先端を摘んでいると花芽が付かなくなってしまいます。
目安としては花芽形成の約1ヶ月半~2ヶ月前には芽摘みを終わらせ、各枝を充実させておく必要があるため、観賞段階の花物類・実物類に芽摘みが出来る時期は意外と限られています。
日本の植物の多くは夏頃が花芽形成期ですが、樹種によって時期が異なるので要確認。花芽形成期までに枝葉が伸び充実するように芽摘みを済ませておきましょう
2. 芽摘みの効果
芽摘みは小枝を増やすことだけではなく、葉数も増えるので光合成や同化蒸散作用も促進され、植物の生育がよくなるという生育面に良い効果もあります。
また盆栽としては葉も樹の大きさに見合って小さくなければおかしな姿になりますが、芽摘みで枝を切り詰めた後に出る葉はより小さくなるという、愛好家に都合のいい結果ももたらします。
シンパクやトショウの他、ケヤキやカエデ・ヒメシャラなどの芽吹く力が旺盛な葉もの樹種では、生長期の間に数回の芽摘みができるものもあり、言い換えると1年間で数年分の成長を遂げさせることが可能になります。
このように、芽摘みには鑑賞面だけでなく、生育面や樹勢の維持など多くのメリットがあげられます。
- ・枝数を増やすことができる
- ・次に出る葉が小さくなり、幹と葉の大きさに調和がとれる
- ・枝の太りを抑え、サイズを維持できる
- ・強い芽を切ることによって、弱い芽にも力が回り、全体の力を平均的にできる
- ・採光や通風がよくなる
- ・植物の成長を早め、盆栽としての鑑賞価値があがる
3. 芽摘みの基本フォーム
芽摘みの時期
芽摘みは新芽が伸びてくる春から初夏の頃が作業時期で、芽吹きが旺盛な樹種は秋口まで行うこともあります。
基本的にはまだ枝が柔らかく指で摘めるうちに行いますが、樹種によってはあまり早いと思ったように2番芽が伸びなかったり、枝が弱る原因になります。
養成木や樹勢の落ちた樹は、一旦伸ばし気味にして勢いを付けてから芽摘みをした方が安心で、広葉樹だと新梢の葉が4~5枚展開した頃が適期。維持が目的の完成木では、輪郭線から飛び出したものから摘んで樹形を維持してください。
分類 | 養成木 | 完成木 | 備考 |
---|---|---|---|
松柏類 | 一旦伸ばして、必要な長さで摘む | やや早めに摘むが、樹勢に応じて伸ばす | マツ類はミドリ摘みや芽切り、カラマツ・エゾマツは伸びてから必要な長さの所で摘む |
葉もの類 | 一旦伸ばして、必要な長さで摘む | 輪郭線から伸び出すものから摘む | モミジは伸びないうちに摘む |
花もの類 | 一旦伸ばして、必要な長さで摘む | 一旦伸ばし、6月頃(樹種による)に芽摘み | 花芽形成期を確認 |
実もの類 | 一旦伸ばして、必要な長さで摘む | 春先に新梢の先端に開花・結実するものが多いので芽摘みは基本的にしない(花芽のあるものや短枝) | 花芽形成期を確認、徒長枝は適宜摘む |
摘み方
芽摘みの例(ケヤキ)
新梢は1~3節残して摘むのが基本で、これによって盆栽自体が大きくなるのを抑えながら枝数を充実させることが出来ます。
最終的にどのくらいのサイズに作りたいかを考えながら、枝を太らせ全体的に大きくしたい場合は長めに、細かい枝を作り小さく作りたい場合は短めに摘んで形を整えていきます。
芽摘みは伸びたものから順次行いますが、すべての芽を同じように摘んでいると必ず強弱の差が生じます。
下枝やフトコロ部分の弱い枝は芽数を多く残して葉量を確保し、枝に力を付けさせてください。
反対に強すぎる枝や徒長枝は1つだけ芽を残して力を抑えたり、1つも芽を残さずに不定芽を期待する方法などがとられます。
切り戻し剪定と芽おさえ
先にも少し触れましたが、「芽摘み」には伸びた新梢を摘む基本の方法の他に、ある程度伸ばしてから鋏で切り取る「切り戻し剪定」があります。
切り戻し剪定は新梢をそのまま枝として使いたい時など、主に養成木の基本の樹形作りで行う方法で、「枝を伸ばして枝元を太らせ、あとから切り詰める」を何度か繰り返すことで、コケ順をよくする目的があります。
枝作りには芽おさえを
新梢はそのまま伸ばしてもいいのですが、真っ直ぐ伸びくるので、針金で軽く曲を入れておくと後の樹形作りに役立ちます。
芽おさえの例(マユミ)
新梢を針金でしつけておくことを「芽おさえ」といって、基本の枝模様を作る目的の他、枝の勢いを抑制する効果もあるため、花もの実もの類の花芽形成を促進する目的でも行います。
古くなれば癖の付きにくい樹種でも、新梢ならば細いアルミ線で簡単に曲げることが可能で、しなやかさがあるので折れにくいのです。枝先はいずれ切り戻すので、枝元をややしっかりめにしつけておいてください。
ただし、新梢は太りが早く、早いものは2週間もすれば食い込み始めるので、傷が深くなるまえに外し、必要であれば掛け直しておきしょう。
切り戻し剪定のタイミングは、目的の太さを得た段階でOKですが、あまり遅くなると2番芽が秋までに伸びきらないので、遅くとも8月頃までには終わらせておきましょう。
4. 芽摘みの注意点
若木と古木の芽摘みで気をつけること
若木は樹勢が強く成長も早いので、枝を切り詰められてもすぐに次の枝を出そうと活動を始めます。
反対に、完成木や古木の生育力自体は比較的弱いですから、若木と同じようなペースで芽摘みをしてしまうと樹勢を衰えさせる原因になります。
完成木の芽摘みは枝数を増やすことよりも、元ある樹形を維持し全体の勢力を均等に保つことを目的として行います。伸ばしたくない部分は早めに摘み、枝が欲しいところはやや伸ばしてから摘むなど、樹勢や生育段階に応じた芽摘みができれば上出来です。
新芽には害虫がつきやすい!
柔らかい新芽はアブラムシやハマキムシ、ダニ類などの吸汁性害虫の大好物で、発見しにくい葉裏で繁殖し、気がつくと大きな被害になることがあります。ナメクジやヨトウムシの食害も問題で、昼間は鉢裏などに隠れているのですが、夜間に活発に動き出して新芽や蕾を食べてしまいます。
せっかく芽吹いた葉に被害がでると後の生育に悪影響を与え、病気にもかかりやすくなってしまうので、特に芽出しから梅雨頃までは定期的な薬剤散布で防除することが大切です。
ただし新芽は組織が柔らかく、浸透性の高いスミチオンやマラソンを使うと薬害がでる危険があります。
芽出しの頃や葉刈り後に使う薬剤は薄めの濃度にしたり、サンヨールやダントツ、ディプレックス乳剤など薬害の出にくい薬剤を使用したりと対策してください。
春に使用する薬剤は、薄めの濃度か薬害の少ないものを使う
春に使う薬剤は、GFオルトランCやダントツなどの浸透移行性の殺虫剤の他、汎用性の高いサンヨールなど薬害の出にくいものがお勧めです。
農薬は多量に散布すると光合成や蒸散作用を物理的に阻害してしまうこともあります。エアゾルタイプの近接散布は冷害が起きやすいので使用方法を守って使いましょう。
虫を見るとついべったりと散布してしまいがちですが、本来は予防のために使用するものです。病害虫の発生しやすい葉裏を中心に散布し、表面は軽く付くくらいで充分と思ってください。
5. 樹種別の芽摘み
盆栽作りの上で大切な手入れの1つに芽摘みがあります。芽摘みとは春から伸びる新芽のうち特に勢いの強いものを摘みとることで、次に出る二番芽の勢いを弱め全体を小さく仕立てる...
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コメント
- ヒョウ さん 2022年02月24日18時56分
- しんとうさん
こんにちは。
昨年から、もみじの実生を始めました。
昨年の苗(1才?)や、今年タネから出たばかりの
苗も、芽摘みしても大丈夫か、しない方が良いかに
ついてお伺いしたいと思います。
宜しくお願いします。 - きみ さん 2022年02月25日08時31分
- ヒョウ さんへ
こんにちは~。
芽摘みの目的は枝の伸びを抑えて小枝を増やすことです。
主に、基本の幹枝の形ができたものをより完成に近づけるためにやります。
芽摘みをしていると、小枝を出すようにパワーを使わなければならないので幹は太りにくくなります。
やはり、幹から枝に向かっては徐々に細くなり、節(枝の節間)も枝先にむかって短くなっていくのが理想です。最初から小枝を密に作ろうとすると全体のバランスが悪くなってしまいます。
できれば、2~3年は強く伸びたな~これはいらないな~と思う枝だけ時々切るくらいにして、伸び伸びと育ててみてください。
幹模様だけは今のうちにしっかりつけておくといいので、写真のように針金をかけるのはよいと思います。 - ヒョウ さん 2022年02月25日09時44分
- しんとうさん
おはようございます。
ご丁寧に返信頂き、有難うございます!
豆盆栽に無謀ながらも挑戦してみようと、苗のうちに
芽摘みして小枝を増やしたらどうかなと思って質問させていただきました。
でも、しんとうさんのアドバイス読んで、それは幹が太くなることと
相矛盾することがよく分かりました。困ったなしかし。
今年は実生がだいぶ収穫がいいので、何株か芽摘みしてみようと
思います、駄目もとで。いろいろ試行錯誤し、失敗してまた一から
リセットできるのも盆栽の醍醐味ですよね。
残りは、しんとうさんがおっしゃる通りにのびのび育てることに専念します。
結果は、追ってまたご報告します。