クロマツ(黒松)の芽摘み

投稿日:2020/03/29 更新日:2023/04/07

クロマツの芽摘みは新梢の長さを一定にして小枝を充実させる目的で行うもので、芽切りや葉すかしなどの針葉を短くする技術(短葉法)と一連した大事な作業です。

マツ類は成長が遅い一方で、春の伸長はとても旺盛。この芽の勢いをいつ、どのくらいの強さで抑えるかで将来の樹高や枝のできかたが違ってきます。

1. 芽摘みが必要なもの

松柏類は花実ものと比べて1年の姿がほとんど変わらないと思われやすいのですが、マツ類は季節ごとに変化があり、特に春の伸長生長は芽を見張るものがあります。

硬い冬芽は春になると段々ほぐれてきて、上へ上へと芯を伸ばしてきます。この伸びた新梢(ミドリ)を適当な長さで折り取るのが芽摘み(ミドリ摘み)ですが、仕立て段階や樹勢によって芽摘みが必要かそうでないかが違います。

一般的に、クロマツの芽摘みは幹の肥大や基本的な枝骨格を作りたい仕立て段階の養成木に行う作業で、小枝の充実や短葉を期待した半完成~完成木ではミドリ摘みはしないでそのまま伸ばし、7月頃に芽切りをすることが多いです。

また、完成木でも樹勢が弱っているものは、2番芽を作る力もほとんどないので、芽切りができないと判断して、樹勢回復を第一に、春に軽くミドリ摘みだけやっておくという場合もあります。

枝を立て替えたい時や、他の枝に力を付けさせないために敢て数本のミドリを伸ばしたままにして(犠牲枝)、弱い芽で小枝を作ることもあります。

仕立て段階に限らず、枝の強さや樹勢ののりかたで芽摘みか芽切りかの判断をしますので、樹の状態をよく観察して決めてください。

実生2~3年生くらいですとまだまだ肥大の段階ですから、芽切りは疎か芽摘みもあまり本格的にはやれません。あまり早いうちから芽摘みや芽切りを行うと、樹が太らずコケ順が悪くなってしまうので注意してください。

一般に出回っている実生4~6年生の模様のついた元気な素材なら、そろそろ芽切りをしてもいい段階にあると考えていいと思います。

2. 芽摘みの時期と方法

クロマツの芽摘み

芽摘みの時期は4月上旬~5月頃で、新芽がのびて葉になるトゲもややほころんでくる頃が合図です。

黒松や赤松などのマツ類の新芽は「ミドリ」といって産毛のような鱗片で覆われたつくしの様な状態で、芽摘みは伸びてきたミドリの葉がまだ開かないうちに必要な長さを残して摘みとります。

ハサミで切ると葉になるトゲを痛めてしまうので、指で折り取るようにして摘んでください。また、この時に古葉(前年葉や前々年枝)が残っていて葉がいっぱいあるようでしたら、先端の葉を3~4本(1本2対)残すように葉すかしをしておきましょう(下イラスト)。

黒松の芽摘み

必要な長さのところで芽摘みをして、必要なら葉すかしもしておきましょう

特に樹芯の芽摘みは、摘み取る長さによって将来の樹高をどれくらいにするのかが決まるので大事な部分。側芽や下部の芽の伸びは頂芽より1週間くらい遅いかほとんど伸びてきませんから、強く伸びてきたものから芽摘みを行ってください。

マツ類が1年間に伸びる枝の長さは葉が開き始める時期にはもう決まってしまうので、ミドリの状態のうちに今後の枝の伸びを考えて適当な長さで摘む必要があります。

摘む長さは全体の半分~1/3くらいを目安に、将来の樹冠の輪郭をイメージしながら強い芽は短めに、弱い芽はそのままか長めに残して指で折り取るようにして摘みます。

残した芽からは新葉が伸び、新梢の先端部分には生長点が再生されて翌年の芽が作られます。

芽数の調整(芽かき)と抑制(3月頃)

強い芽の脇に弱い芽がバランス良く付いていたら、真ん中の強い芽を取っておくのも1つの方法です

樹勢の強い若木や肥培してある養成木は特に勢いがあるので、強い芽が1本でる枝もあれば3芽以上吹くものもあります。

複数芽はそのまま残していると「車枝」になって枝元がゴツくなってしまう原因となるので、複数の芽が出た時は芽かきをして芽数を減らしておく必要があります。

芽かきの時期はミドリが伸び始める直前がベスト。新梢が伸びてしまってからだと芽かきをしても傷口が大きく残ってゴツさが嫌味として残りますので注意してください。

休眠期でも可能ですが、まだ芽が硬く取りにくいので、少し吸い上げが始まったころがお勧めです。

芽数やそれぞれの勢いも枝によって異なり、強い芽の脇に弱い芽が複数ついたり、同じ勢いの芽が1箇所から複数伸びたりします。

犠牲枝としてのばしている枝なら、最終的には切り離すのでそんなに気にすることはないですが、それぞれの目的や状態を見極めて適当な芽調整ができるようになりたいものです。

下絵のように、強い芽の脇に弱い芽がバランス良く控えている場合は、真ん中の一番強い芽を元から摘んで、向きのいい弱い芽を2芽に調整しておいてください。

1週間もすれば残した弱い芽が伸びてくるので、芽摘みと同じ要領で伸びたものから適当な長さの所で摘み取ります。

マツ類の芽摘みではその他にも芽摘みの時期を遅らせたり、全部の芽を摘み取る盲摘みなどがあり、胴吹きの促進や葉を短くする効果があります。

黒松の芽かき

1箇所から複数の芽が吹くものは芽数の調整をしましょう。

芽切りを控えている場合の芽摘み

芽切りを前提にした芽摘み

芽切りを予定しているものでも、あまり強く伸びるものは先端だけ摘んでおきます

7月頃に芽切りをする予定のものは、勢いを付けさせるために春の芽摘みをしないで伸ばしたままにすることが多いのですが、特に勢いの強い芽には芽摘みをすることがあります。

この場合は、残す長さは気にせずに、ミドリの先端を指で摘み取っておくだけでOK。

特に文人作りのものは枝のゴツさが致命的になってしまうので、太りすぎる前に先端だけ折り取って伸びを止めておいたほうが、余計な枝太りが抑えられ、いい姿になります。

通常のミドリ摘みのように短く摘んでしまうと、枝に勢いが付かずに芽切りの効果が弱まってしまうので、できるだけ多く葉を残す(先端だけ摘む)ようにしてください。

芽切りが前提ですから、1箇所から複数の芽が伸びている場合は小さい芽を全部掻き取っておき、強い芽だけ残しておきましょう。

芽切りを前提にして芽かき

芽切りを予定しているもので、1箇所から複数の芽が伸びた場合は、1つにしておきましょう

強い芽を残すか、弱い芽を活かすかは将来の枝のコケ順をどう仕上げたいかで決まります。

仕上げの段階では芽切りメインですが、完成木でも枝を作りたいところは部分的に芽摘みで作る場合もありますので、目的に応じて行ってください。

クロマツは葉を残した部分や強く曲げた箇所からよく胴吹きもしますから、判断が難しい場合も「ある程度はやり直しが効く」と構えておくといいと思います。

3. クロマツの芽切り

芽切りは主に完成木の葉を短くする目的で行う作業で、養成木でも幹の太りが充分で、基本樹形の出来たものは芽切りで小枝を増やしていきます。

よほど芽の勢いの強いものは「抑制」のために春に軽い芽摘みをすることもありますが、一般的には芽切りを行う予定のものは春の芽摘みを控え、勢いを付けてから摘むことで2番芽の芽吹きを促進させます。

芽切りの時期は7月10日~20日頃。関東以南では15日~下旬頃に行うことが多いです。

芽切りの手順は、春から伸しておいた新梢を元からハサミで切除します。この時、少し吸い上げを残しておいたほうが先端付近に形成される2番芽を痛めませんから、付け根の部分を少し(2mm程)残すように切除してください。

作業時期が早いと秋に観賞する時に葉が長くなってしまうので、更に葉の締まったミニ盆栽を作る場合は8月に入って芽切りすることもあります。

枝数が多い中品~大物サイズでは、先に勢いの弱い中段~下段から芽切りをして2番芽を作らせる準備をさせ、1~2週間後に上段を芽切りして全体に平均的な芽を作らせる方法が取られますが、小品~ミニサイズなら、ある程度ミドリが伸びきったところで一度に全体を芽切りしても問題ありません。

黒松の芽切り

新梢を付け根を少し残して切る

芽切りと葉すかしはセットで

芽切り後、前年枝を整理していない場合は葉すかしも行ってください。

芽切り後の葉すかしはセットで行う作業で、成長点を止め、さらに葉量を減らすことで2番芽の形成を促進させる効果が期待できます。

葉すかしのやり方は、前年枝に付いた古葉のうち、頂部の葉を3~4本(1本で2対)残して取る作業で、鋏を使ってハカマの所で切除します(ハカマはいずれ自然に取れます)。

黒松の葉すかし

芽切り後、前年葉を3~4本(1本は1対)残して切る

頂部の強い枝は2~3本、下枝は芽切りを見送るか3~4本と残す芽数を調整し、全体の力のバランスを平均的にするよう意識しましょう。

葉を残した部分から優先的に2番芽が作られるので、希望の場所から枝を出させることが出来ます。

将来枝が伸びる方向を考え、残す芽の配置にも気を配ってください。

いくら樹勢の強い黒松でも、芽摘みや芽切りは樹に負担のかかる作業の1つです。前年の秋はもちろん、春からも充分に肥料を与えて芽切りに備えておきましょう。

また、樹勢の弱っているものには芽摘みや芽切りを見送るなど樹の状態に応じた手入れも大切です。

黒松の葉すかし

将来伸びる枝の向きを考えて、バランスよく葉を残す

4. 黒松の夏芽かき

黒松の夏芽

芽切りの後に出てくる夏芽(2番芽)

芽切り葉すかし後、1ヶ月もすれば残した対の葉の間から2番芽(夏芽)が作られます。

葉すかしの際に多めに残した場合は1箇所から3つ以上出てきますから、2芽2芽となるように向きのいい芽を残して芽かきをしてください。

黒松の夏芽はミドリ(冬芽)の形状と違って、草のような扁平で柔らかい芽がでるので驚く人がいますが、秋には通常の葉になるので心配いりません。

付け根の部分の葉(スソ葉)は枯れても草の状態で付いたままなので、新梢が固まったら切除して内部をスッキリさせておきましょう。

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コメント

jang seil さん 2021年05月10日01時06分
クロマツの芽摘みの方についてよく学びました。
どうもありがとうございます。 
きみ さん 2021年05月10日15時25分
jang seil さんへ
コメントありがとうございます!
これからも頑張ります~
樹 さん 2021年08月23日19時40分
いつも楽しみに拝見しています。
黒松の芽切りについて教えていただけますでしょうか。
7月上旬に小品サイズの黒松の芽切りをしましたが、2番芽が吹きません。十分な樹勢がなかったのかと反省してます。
今年は吹かなくても、来春は芽切りしたところから吹くものでしょうか。かなり切ってしまったので今後が不安です。
きみ さん 2021年08月24日18時02分
樹 さんへ

たしかに芽が全くふいていこないのは心配ですね。
かなりとはどのくらい切ったんでしょうか、、、葉は残っていますよね?

弱っていたのに芽切りしたとかなら、一時的に樹勢はおちますが、枯れていないのなら9月までにはなにかアクションがあるかもしれません。
それか来春に小さい芽が作られると思います。
樹 さん 2021年08月24日21時14分
ありがとうございます。
割と勢いよく芽が伸びていたので、弱い芽を残して8割くらい切ってしまいました。葉は残しています。また、残した芽は元気です。
肥料は取り除いていますが、あげた方が良いですかね。
きみ さん 2021年08月25日10時19分
樹 さんへ
秋肥はこれからあげてください。
葉がしっかり残っているなら大丈夫です。年内に芽ができると思いますよ。来年に期待ですね!
樹 さん 2021年08月25日21時04分
いつもありがとうございます。
アドバイスいただきほっとしました。芽が出るのを楽しみに待ちたいと思います!
栄 さん 2023年01月17日22時12分
YouTubeを含め、いつも参考にさせていただいております。本日、千寿丸の苗木(樹高15㎝)を手に入れたのですが、頂部には冬芽が5-6個あり、他の枝にも3-4個の芽がついています。芽数を減らすために芽かきをしたいと思いますが、タイミングがよく分かりません。今でもいいのか芽摘みのタイミングまで待つのか、ご指導いただけませんか。よろしくお願いします。
きみ さん 2023年01月19日09時40分
栄 さんへ

ありがとうございます!
芽かきは休眠期の間でもいいですし、少し吸い上げが始まって芽がほころんできたころでもいいと思います。2月から3月頃
そちらの方が柔らかくてもぎ取りやすいです。
栄 さん 2023年01月19日10時53分
きみさん
早速のご連絡ありがとうございます。来月、針金成形と鉢上げをしようと思っていますので、そのタイミングで芽かきをしてみます。アドバイスありがとうございました。
健 さん 2023年03月16日10時09分
みきさん
わかりやすい黒松の記事に感謝します。頂いた黒松(樹齢50年位)大物盆栽です。昨年芽摘みがされて無く伸び放題です。この場合はどのように対処すれば宜しいのでしょうか。悩んでいます。
自分なりに手入れしたこと、枝枯れも多く取り除き、一作年の古葉はすべて取りました。
手入れ法をお教え下さいますようお願いいたします。
きみ さん 2023年03月16日16時42分
健 さんへ

芽摘みや芽切りがなされず伸び放題の状態のものなら、取り敢えずはミドリが伸びてきたら軽く芽摘みをしておくといいかもしれないですね
これは、枝を太らせないようにするためです。

放任状態で悪いことばかりではないはずです。枝に勢いがついて胴吹きも期待できますから、そのような枝を大事に、切り戻せるところは切り戻しておきます。

そして、7月の芽切りのタイミングで前々年枝(去年伸びきってしまった枝)の任意の位置まできると、古枝にも芽ができたりします。
中芽切りする要領で、葉があるところで切らないと水があがりませんので芽がでません(芽止まり)が、4月~8月頃の間に行えば芽が育ちます。
葉がないなら、通常の芽切りをして、そのうちできるフトコロ枝を大事にするようにしましょう。

一旦樹形がくずれてしまうと全く同じ姿に戻すのは難しいですが、芽摘みや芽切り、葉すかしなどで適度に抑制をしていると、いいところに芽を作ってくれますから、新たに枝を立て替えたりして作り直します。

十分に樹勢があれば、葉があるところから優先して(ないところにも)芽を作れます。

ただ今回は樹齢があるので、樹勢は少しおちついているかもしれません。
多少若返るかもしれませんが、春からしっかり肥料をあげて元気を付けさせ、切込みに備えておくと安心です。
健 さん 2023年03月16日19時23分
きみさんへ

アドバイス頂き有難うございます。お言葉に従い取り組んでみたく思います。
育てる希望が湧いてきました。良い経過のご報告が出来るように取り組んでみます。
有難うございました。
太田佳吾 さん 2023年03月30日08時09分
芽切り、葉すかしについて質問させてください。
所持している黒松の小枝を増やしたいと思い、芽切りを考えているのですが、小枝を増やしたい枝に新芽がありません。
(赤丸の二本の枝)
この場合、新芽がある枝は芽切り・葉すかしを行い、新芽がない枝は葉すかしのみを行えばよいのでしょうか?
それとも新芽がない枝は勢いがないと考え葉すかしも行わない方がよいのでしょうか?
また、枝の中間あたりに一昨年葉を残して葉すかしをした場合、そこから芽がふく事はあるのでしょうか?
去年は植え替えをして芽切りを見送った為、今年こそ芽切りをしてみたくウズウズしています(笑)
きみ さん 2023年03月30日16時16分
太田佳吾 さんへ

赤丸で囲ってくださっている部分はたしかに元気がないですので、芽切りもできませんし葉すかしするほどの葉量もないのでそのままにしておいたほうがいいと思います。

植替えするとときどきこんな感じになりますが、しだいに元気になってきますから、そのときにどうするか考えても遅くないです。

写真を確認しますと、芽があるところもそんなに強い芽ではないので芽切りできるかな?
取り敢えずミドリを伸しておいてこちらも様子見かと思います。

植替えして2年目ですからやっと樹勢ももどっってくるころです。
芽切りしてみたい気持ちとってもわかりますが、もうすこし我慢です。
黒松は丈夫なのでこの状態から枯れるということもないですから、本格的な短葉法や小枝増やしは来年以降を目指して今年まで養生させておいたほうがいいのではと思います。

葉を残して枝の途中で切ると芽ができますが、これも樹勢が十分であることが前提なのです。
この黒松の場合は、やっと芽が準備できました。という感じなので、しばらくは無理なことはしないほうがいい結果になるのではと思います。
太田佳吾 さん 2023年03月30日22時02分
むむむ…芽切りは控えた方がよいですか。
では我慢してもう一年は養生期間にしようと思います。

今年行える作業とすればいつにどんな作業がありますでしょうか?
あまり間伸びもさせたくないので芽摘みくらいは行っても良いのでしょうか?
それとも樹勢回復第一に考え芽摘みも控えた方がよろしいでしょうか?
また行えるとしても先になると思いますが間伸びしてしまい葉の無い所に芽を持たせる方法などもあれば教えていただきたいです。
きみ さん 2023年03月31日07時18分
太田佳吾 さんへ

今できることは葉すかし、伸びに応じて芽摘みくらいはできると思います。
芽切りをする予定なら肥料も今時期からしっかり効かせます。

間伸びした所は、葉が残っていることに優先して芽ができたりしますので
そういう芽を活かして切り詰めることができます。

中芽切りで芽を作らせることもできますし、強く曲げたところにも芽ができたりします。
でもこうすれば絶対こうなる。ということはないので、お役に立てるコメントができないです。
申し訳ありません。

どちらにしても樹勢がのらないと芽も出来にくいです。