松も“紅葉”する
更新日:2022/12/29
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カエデ類やケヤキなど、秋にコウヨウ(黄葉するものを含めて簡易的に以下、紅葉と書きます)する落葉広葉樹と違って、マツ類やヒノキ類などの松柏類は、一年を通じて青々とした緑の葉をしているので、その生命力の強さから古くから長寿と繁栄を象徴する樹種として扱われています。
ですが、そんな松柏類や常緑の広葉樹でも、環境変化や生育不良などの外的・内的ストレスが原因で紅葉することがあります。
ではどんな場合に松柏類は紅葉するのでしょうか?
C o n t e n t s
1. 「枯れた?」常緑のはずの松類やヒノキ類が枯れ葉色になってしまった...
八房スギの紅葉。個体差もありますが、寒さに当たると赤茶色に葉が変化します。
松柏類(トショウを除く)は寒さに強いものがほとんどです。
ただ、小さな鉢で培養する盆栽の場合は、冬の乾燥や凍結などの影響を受けやすく、マツ類(クロマツ、アカマツ等)や津山ヒノキ、八房スギ、石化ヒノキ、シンパクなどは冬期に紅葉(葉が茶色くなる)する場合があります。
松柏樹種の紅葉した姿は、一見すると枯れた場合と葉色があまり変わりませんし、スギに関しては茶色いタワシのような姿になって驚くかもしれませんが、枯れているわけではありません。
2. 秋の紅葉の仕組み
一言に「紅葉」といっても、文字通り真っ赤に色づくモミジやカエデがあれば、鮮やかな黄色に変わるイチョウなど色味や発色のバリエーションは樹種によって様々です。
また、同じモミジでもその年の環境や場所、個体差によっても色付きに違いがあり、『去年はそれほど色付きがよくなかったけど、今年はとても綺麗に紅葉したなぁ』と感じることもあるかと思います。
落葉広葉樹が秋に紅葉する条件は、まず気温の低下(8℃を適度に下回るくらいの気温)と、日中の十分な太陽光(特に紫外線)で、それに伴う昼夜の寒暖差が大きいほど紅葉が進みます。
そもそも葉が緑色に見えるのは、緑色の色素(クロロフィル)が可視領域の光を反射して人の目に見えているためで、実は植物の葉や花の色にはクロロフィル(緑色)の他に、カロテノイド(黄色または赤色)やフラボノイド、ベタレイン(ベタシアニンは赤紫色、ベタキサンチンは黄色)などの色素も含まれています。
例えば、ブラボノイドは単独で存在する場合は白~淡黄色を示しますが、クロロフィルやカロテノイドなどが存在する場合はマスクされて色として見ることはできません。
ところが秋が深まり段々と気温が下がってくると、他の色素を強くマスクしていたクロロフィルが減少し、通常は見えなかった黄色や赤、紫などの色素が目に見えるようになります。また、紅葉するモミジやケヤキなどでは、光合成で作られた糖からアントシアニンという赤い色素が新たに作られることで、葉が緑から鮮やかな赤色に変化します。
前述したように、黄色い色素(カロテノイド)は、アントシアニンのように新たに合成されるのではなくもともと葉に含まれている色素ですから、クロロフィルが分解されるにつれて視覚できる色として現れます。
そのためイチョウなどの黄葉する樹種は、気温の低下が早かったり遅かったりすることで色付きの見頃が多少前後することはありますが、気温の低下以外(クロロフィルの減少以外)の環境要因を受けにくく、各個体での色付き具合は毎年同じです。
ちなみに、色付いた紅葉が綺麗な状態で維持されるためには高い湿度も重要で、特にモミジのような湿度の高い尾根に挟まれた谷や沢筋を好む樹は、秋冬の乾燥した空気で葉を痛めやすいため、より美しい紅葉を観るためには空中湿度の管理にも注意が必要です。
- 気温の低下(日中の最高気温が8℃を適度に下回る日が続く)
- 強い紫外線
- 適度な湿度
3. 光阻害を防御するフラボノイド系色素(アントシアニン)
赤い色素(アントシアニン)はクロロフィルの分解に伴い、葉に残された糖から新たに合成される色素であるということを書きましたが、ではなぜ休眠前にわざわざ大事なエネルギーを使って新たに色素を作る必要があるのでしょうか。
ポリフェノールの一種として知られるアントシアニンは、強い抗酸化作用を持つことで知られていて、身体の老化防止や免疫力向上、視力低下予防など様々な効果効能を持つ栄養素として、わたしたちが日頃常食している穀類や芋類、野菜類、豆類、果実類などに豊富に含まれるフラボノイド系の天然色素です。紅葉したカエデ類やニシキギ類の葉だけでなく、ブドウやリンゴ、ブルーベリー、茄子、シソなどにもたくさん含まれています。
植物体内では糖と結合した形(配糖体)として葉で合成され、強い光に晒されることによる活性酸素の発生(光阻害)を予防する働きをしています。
通常は、光合成で合成される光化学エネルギー(ATPやNADPH)と、そのエネルギーを用いて有機物質を体内に取り込む反応(炭酸同化)はほぼ同じバランスが保たれています。ところが、栄養状態の悪化や病害、環境ストレスなど葉の光合成を抑制するなんらかの環境要因が発生した場合は、過剰に取り込まれた太陽光エネルギーが活性酸素を発生させ、葉緑体の光合成装置を破壊するようになります(光阻害)。
この光阻害を防ぐため、葉の表皮細胞でアントシアニンが合成され、太陽光をフィルターして過剰な活性酸素が発生しないようにしています。
紫外線が強い高山の植物が鮮やかな花色をしているものが多いのもこのためで、植物に当たる紫外線が強ければ強いほど、活性酸素の害を消そうとして多くの色素が作られるようになります。
落葉性広葉樹の紅葉は、葉に残された糖分から合成されたアントシアニンが色として現れた自然現象ですが、常緑植物でも寒さや栄養不足、根腐れなどが原因で炭酸同化が正常に進まなくなった場合は、強い紫外線による活性酸素の発生から葉を守るためにアントシアニンが合成され、特に幼苗や新芽などにこのような症状が現れやすくなります。
クロマツ幼苗の葉色。左は通常の緑色で、右はまだ葉の組織が弱いうちに寒さにあたって紅葉が始まりました。
4. 松柏類の葉のコウヨウはあんまり心配しなくて大丈夫
シンパクの紅葉
秋の訪れと近い冬の到来を告げるモミジやカエデの鮮やかな紅葉は、愛好家にとっては1年の管理培養の成果を知るいい機会です。
夏に葉焼けさせたり、うどんこ病にかかったり、肥料を効かせすぎたりすると美しい紅葉になりませんし、秋からの気候にも気を配らなければいけません。
気温が十分に下がらない暖地では紅葉しないまま休眠に入ってしまうものもあるようですが、反対に寒い地域では常緑の広葉樹や針葉樹も紅葉することはよくあります。
特に松柏類の紅葉は、カエデやニシキギのような美しい色付きではなく、枯れたような「霜焼け状態」に近いので驚く人もいるかもしれませんが、葉や枝の芯をよく観察するとわずかに色素が残り、萎れていないので吸い上げがある(ちゃんと生きている)のが分かります。
松柏樹種の冬の紅葉現象は、寒さや凍てつき、乾燥などの環境変化によるストレスから身を守るための一時的な防御反応として現れていると考えられます。
冬期に展示を控えている場合はしっかり保護しておけば常緑のまま見られますが、冬の寒さに当てることは翌春の正しい芽吹きにもつながる大事な要因なので、暖地性の樹種でない限りは過保護にしないようにしましょう。
コメント
- ドレミママ さん 2023年01月08日12時14分
- この記事をよんで衝撃をうけました。まさにこの状況でしたが。。。松は紅葉しないと勝手に思っていた私は、せっかく育てた松ぼっくり盆栽を枯れてしまったと思ってしまいました。そして。。。それでもと思い、実生のものでしたので、根の成長がだめだったのかもしれないと、ダメ元で植替えを行ってしまいました。この記事をみて納得しましたがこんな寒いときになんてことしてしまったのでしょう。でも引き続きメネデールをかけたり、夜は暖房のない部屋にいれたりして、復活を願っていたところでした。なんとか生きていて欲しいと願っています。種から育てていて、小さいながらもがんばってる姿に元気をもらっていたので、、、、。勉強になりました。写真を添えます。これはもうダメでしょうか。。。。
- きみ さん 2023年01月09日14時57分
- ドレミママ さんへ
こんにちは
種からやると愛情も沸くし、癒やされますよね~
特に松の芽生えはイソギンチャクみたいな姿で、初めて実生した時はすごくわくわくどきどきでした。
お写真ありがとうございます。
この感じですとぜんぜん生きていますので、心配ないですよ
冬芽も元気そうです。
このように紫かかって紅葉するのは、やはり何らかのストレスで防御態勢に入っているのだろうと思いますが、ちゃんと生きている証拠です。
植替えをしたといっても根をバツバツと切ったわけではないと思いますし、冬は私もマツの植替えばんばんやりますので時期的にも作業強度的にも大丈夫だと思います。
なにより、この黒松を大事にしているお気持ちがすごく伝わりました。なんとかしてあげたくなりますからね。
また来年から元気なミドリを伸してくれると思います - ドレミママ さん 2023年01月09日19時20分
- 早々のお返事ありがとうございます。このようにお返事いただけて大変うれしく思いますし、なにより私の心の中に「ほんとに!!やったー」ってなんだか元気が湧いてきたようです。
紅葉の仕組みをもう一度よく読み返して、大切に育てたいと思います。動画もみさせていただいております。ありがとうございました~