真柏(シンパク)の魅力

投稿日:2014/06/20 更新日:2021/03/25

真柏(シンパク)の魅力

第14回きらく会総合展示「シンパク樹形百態」

真柏(シンパク)はヒノキ科ビャクシン属の常緑針葉高木で、海岸沿いの崖上や砂地など日当たりのいい乾燥した場所に自生している伊吹(イブキ)の仲間。

「松柏」の松に並ぶ柏(カシワ)とはヒノキの仲間のことで、古くから日本人の生活に密接なものとして親しまれ、神社の御神木としても崇敬されてきました。この「柏」に「真」の字を付けられる「真柏」は、盆栽においても欠くことの出来ない高名な樹として広まり、世に知れるようになって百年以上。

自然の中で枯れた枝や幹の一部が長い年月の間に風化し、生と死の同居を連想させる独特の姿は、時が経っても多くの愛好家の心を捉えています。

山木のような荒々しい姿を追うに留まらず、作り手の気風によって変幻自在な姿を創造する面白さを持った真柏は、まさに盆栽趣向の神髄ともいえる存在です。

1. シンパクとは?

イブキの園芸品種

イブキの園芸品種

イブキ(伊吹)の仲間は丈夫な性質で園芸品種も多く、ヨーロッパから入ってきたコニファー類を始め、斑入りや黄金色など色や葉性も多様です。

中でも潮風や排気ガスに強いカイヅカイブキ(貝塚イブキ)は、生け垣や庭木、公園樹として広く利用され、その葉はシンパクとよく似ています。

盆栽界での「シンパク」もイブキの仲間ですが、高山に自生するミヤマビャクシン(深山柏槇)のことを指していて、特に葉が細かく材が堅固であることが最大の特徴。針金整枝に強く、あらゆる造型に仕立てることができるのも魅力です。

ミヤマビャクシンは北海道から屋久島まで各地の高山帯~亜高山帯に分布していて、四国産、紀州産、北海道産、黒部産などのシンパクの流通もありますが、盆栽界においてもっとも有名な産地といえば新潟県の「糸魚川シンパク」です。

糸魚川シンパクの葉性の良さは高く評価されていて、海外の愛好家の間でも「イトイガワ」で通じるほど有名となり、不景気と言われる盆栽界で今もなお流通が衰えることがありません。

現在シンパクの山取り素材は入手困難ですが、挿木による繁殖が簡単で、素材作りから着手できる手軽さも手伝い初心者から経験者まで幅広く愛されています。

2. 山採りシンパクの今

糸魚川に自生するシンパク

シンパクの素材はその昔はほとんどが山採りによって得られていました。

昔は四国産のシンパクが多く採れていたようですが数が少なくなり、自生シンパクを求めて幾人もの山取り氏が全国の山に入ったと言われています。

中でも糸魚川シンパクは新潟県糸魚川市にある明星山や黒姫山の断崖絶壁に自生していたもので、明治の末に1人の山採り氏であった鈴木多平氏が発見したものが下ろされ、その葉性の良さが全国に知れ渡ることとなります。

糸魚川周辺の山は石灰岩で出来ており、目当てのシンパクは高さ数百メートルにもなる断崖絶壁にまるで宝の山のように自生していたと言われています。

当時はシンパクに何の感心もなかった地元住民たちも、破格の報酬を求めて次々と山に入りましたが、命綱1本でほぼ垂直な岸壁を下り、巨大な原木を掘り出す作業は危険極まりなく、滑落によって命を落とした人も少なくありません。

昭和58年に明星山で最後に下ろされた樹は樹齢2000年を超え、最後の銘木と謳われました。その後プロの手で丹念に手入れされ、後に「飛龍」と銘々されたこのシンパクは盆栽界を代表する銘木として世界的にも有名です。

飛龍

第8回世界盆栽大会で特別展示された最後の銘木「飛龍」

めぼしい樹がなくなっても山採り氏たちは入山を続け、明治の末から70年以上にわたって続いた原木の採取により、昭和初期頃にはついに取り尽くされて枯渇状態になりました。

わずかに残った自生糸魚川シンパクの葉先

糸魚川の岩壁に唯一残る7m超の自生シンパク。芽摘みがなされていないにもかかわらず、厳しい環境に晒されて締った葉性を呈している

現在の糸魚川周辺の山々の岸壁にはわずかな実生苗やツガ、五葉松が所々に見えるだけとなっていて、かつて一大自生地であったシンパクの姿は見る影もありません。

新たな原木の供給がない上、世界的にも人気が高まりさらに希少な存在となっている糸魚川シンパク。その素材は挿木に頼るのみですが、郷土の誇りとしてしっかりと次代に受け継がれていこうとしています。

3. シンパクの特徴

優れた葉性

真柏の葉性

糸魚川産(左)と紀州産(右)シンパクの葉性

シンパクの1番の特徴と言えば、短く締った紐状の葉と、わずかな水吸いでも生き抜くことができる強靱な幹枝です。

山地により葉性も様々で、葉が細く枝分れの細かい糸魚川産のシンパクは「シンパクの王様」と言われますが、やや葉が太く濃緑色の紀州産シンパクや北海道産シンパクもよく作られていました。

「金性」や「絹糸性」と言われるものは糸魚川シンパクの中でも更に葉が細かい小葉性もので、枝の節も短く小さい盆栽に向きますが、小葉性は杉葉が出やすい性質があり、成長も遅いため枝作りには時間がかかるようです。

赤い肌とシャリのコントラスト

シンパクの幹

シンパクのシャリ幹

自然界では積雪や強風などで押しつぶされ木部が露出し、朽ちて白骨化したものが見られます。枝の一部が白骨化したものを神(ジン)、幹の場合は舎利(シャリ)といいます。

盆栽では人工的にジンやシャリ入れをすることによって、厳しい自然の中で生るシンパクの姿を連想させます。

ただし人工味が出るのはよろしくなく、センスが問われる作業。同時に、作り手の自由な感性で変幻自在な造型に作るのも反っていいのです。

盆栽樹形にはある程度の決まりがありますが、想像の姿や好みに片寄らず、実際に山野へ出かけ様々な姿の樹に目を向けてみましょう。盆栽作りの参考になるはずです。

4. スギ葉と霜焼けの仕組み

シンパクのスギ葉はDNAのメチル化による「異形葉性」

真柏の鱗片葉と杉葉

写真:シンパクの鱗片葉(左)と杉葉(右)

シンパクの葉は通常、紐状に伸びた独特の鱗片葉を持ちますが、ストレスを感じるとトゲ状の「スギ葉」を出すことがあります。

スギ葉は遺伝的な名残である「先祖返り」の現れと言われていますが、その仕組みは葉を食べようとする外敵に対抗するためにDNAを変化(メチル化)させ、トゲのある葉を作り出す「異形葉性」によるものと考えられます(※1)。

DNAのメチル化異常は突然変異とは異なり、生物の遺伝子配列には及ばない遺伝子発現で、決まった遺伝子に起こりやすいことが解っています。

ヒイラギの葉

ヒイラギの葉

葉にトゲを持つ植物には「ヒイラギ」があり、花も楽しめる防犯樹としても利用されていますが、誰も寄せ付けないような鋭いノコギリ葉は、樹齢を重ねると柔らかい卵形なることが知られています。

「角が取れて丸くなる」という言葉はヒイラギからきた慣用句と言われていますが、実際トゲが全く無くなるまでには樹齢数百年以上を要し、シカなどに食べられる心配のなくなる巨木に多く観察できます。

ところが動物などに食べられた低い位置の枝や、人の手によって刈り込まれた枝は、臨機応変にトゲのある葉を出すようになります。

トゲのある葉は、丸い葉を作るよりも何倍もエネルギーが必要になりますが、生きるための戦略としてトゲを作り、自らの身を守っていると考えられます。

コノテガシワの幼木

コノテガシワの幼木も動物に食べられないようにスギ葉を出すと考えられる

野生のシカやヤギは、草本やヒイラギの様な低木だけでなく、植林されたスギやヒノキの葉や樹皮まで食べてしまうため、深刻な林業被害となっています。

シンパクにみられるスギ葉もその防御反応の1つと考えられ、恰好の食料となるヒノキ科樹種の幼木もトゲのある葉を出すものが多くあります。

スギ葉は強い剪定や針金かけの他、強い根処理や多肥などでも生じることがありますが、スギ葉が出た場合は肥料を控え、水とたっぷりの日照だけで数年培養すれば自然に元に戻ります。

スギ葉はいわゆる勢いのある徒長枝ですから、小さい芽のうちに元から掻き取れば、勢いが抑えられて、次の芽は正常な紐葉になることもあります。

初期の部分的な発生は上記の方法で治りますが、基本的にはスギ葉の出た枝を切ってもまたスギ葉が出ますから、強い剪定は極力控えてください。

プロが行う技として、わざとスギ葉(徒長枝)をださせて数年放置し、樹を太らせる方法もありますが、盆栽としてははやりスギ葉の出にくいものが好まれます。

軽い芽摘み程度は行いますが、その間はほとんど手入れができないため、治った頃には枝が間延びして最初から作り直さなければいけなくなります。

日頃の樹勢管理はもちろん、強い整枝を行った年には植替えを行わないなど、できるだけストレスにならないような培養を心がけてください。


(※1)参考文献:「Botanical Journal of the Linnean Society」誌のオンライン版に掲載(2012年12月13日)

冬の霜焼けは自然現象

シンパクのトヤと霜焼けした葉

シンパクの霜焼けした葉

シンパクを始め、スギやヒノキなどヒノキ科の植物は、一般に秋から冬にかけて葉が緑色から黄~赤褐色に変わる「霜やけ」という現象を起すことがあります。

霜やけを起した葉色は黄褐色~赤褐色と色調に個体差があり、色調には外観的観察から、①赤変型(変色が著しく、赤褐色になる)、②黄変型(変色が少なく、黄褐色を呈する)、③白変型(緑色が消失し、白変する突然変異型)、④緑色型(変色せず緑色を保っている)の4型に分けられます(※2)。

その原因には遺伝的要因の他に、蝋皮(葉を覆う薄い油脂状の被膜)の厚さや、日照条件にも影響していることが分かっていて、日光直射部分から優先的に葉焼けしやすい傾向にあります。

葉の緑色の元はクロロフィルという光合成色素ですが、クロロフィルはとても不安定な物質で、光照射で発生する活性酸素による分解や、冬の寒さや乾燥による変成・失活が起こりやすいという性質があります。

葉もの樹種の紅葉のメカニズムと同様に、糖を生成する過程で葉緑素の分解が進み、それに関連してカロテノイドやキサントフィルなどの補助色素が出現し、様々な色調の「霜やけ」を起こしています。

霜やけは気温の上昇とともに自然に緑色に戻るため、冬の姿として眺めることができますが、展示を控えたものや霜やけをさせたくない場合は、霜や空っ風に晒さないように冬期保護をすれば変色が抑えられます。


(※2)参考文献:スギ針葉の冬期における変色の遺伝(第I報) 針葉の変色の観察及びアカスギ,ミドリスギの交難

5. シンパクの繁殖法

シンパクの種木はほとんど挿木で作られています。

発根がよく、剪定枝を挿しておいても根付くので種木作りには困りません。針金で幹模様を付けておけばいろいろな樹形を楽しむことができます。

取木や接木もできるので、幹模様や枝配りがよければ比較的短時間で樹形の出来上がった素材ができます。

6. 関連ページ

真柏(シンパク)の育て方

ほとんどの植物は中性~弱酸性の土を好むのに対して、真柏はアルカリ性土質を好み、自生地でも石灰岩質の所でよく生育します。 盆栽用土ならば赤玉土(小粒)の単用でも...