耐寒性のメカニズム

投稿日:2021/01/27

耐寒性のメカニズム

日本の国土は沖縄地方や北海道、東北地方など限られた地域を除きそのほとんどが温帯に属しているので、寒さの厳しくなる冬の期間は盆栽たちを寒害から保護する必要があります。

冬の保護は単に寒さだけでなく乾燥した冷たい風や積雪、凍てつきや霜の被害から樹を守るために事前の保護対策をすることをいいます。

直接風や霜等が当たらないような安全な場所に樹を取り込むことになりますが、保護する前には整枝作業や消毒、掃除などを済ませておきましょう。

1. 寒害が起こる原因

寒害というのは単に寒さによる害だけでなく、冷たく乾燥した風による枝枯れや、大量の降雪による枝折れなどの被害を言います。

寒さに強い松柏類や雑木類さえ、冷たい乾風に当たると葉が傷んだり枝が枯れてしまうことがあります。逆にさほど寒さに強くない杉やピラカンサなどでも、きちんと対策をしていれば屋外でも問題なく冬を越させることができます。

冬の間に樹を枯らしてしまう事に下のような原因があります。

  1. 晩秋から寒さに馴らさなかった
  2. 防寒、防風対策を全くしなかった
  3. 室内に持ち込む期間が長かったなど、過保護にしすぎて樹が軟弱になった
  4. 冬に無理な針金かけをした
  5. 寒さに弱い樹種や品種を十分な保護なしに越冬させた
  6. 入手後、十分寒さに順応させないうちに植替えや鉢上げをした
  7. 冬越しに対する無知、準備不足

2. 植物ホルモンと耐寒性の関係

四季のある場所に生息する植物は、最も日が短くなる冬至(12月21~22日頃)の時期から冬に備える動きを見せますが、

3. 糖分と耐寒性の関係

植物の耐寒性にはいろいろな要素が関係していますが、その中でも特に重要なものに植物体内の糖分含有量が関係していると考えられています。

糖分は主に植物自身の光合成で合成されるもので、植物体を構造的・機能的に維持するために必要な栄養分。

植物体内に糖分が豊富に含まれている場合、浸透圧の関係で細胞内は水分が十分にあり、外部から水分を要することが少なくなります。逆に糖分量が少ない場合は、より多くの水分が必要になります。

糖分と耐寒性の関係

図:糖分と耐寒性の関係

普通、水は0℃になると凍り始めるのに対して、糖分を含んだ水の凝固点は低く、15%の砂糖水は-1度でも凍ることがありません。

寒さに強い樹種は、気温が下がりはじめると細胞内により多くの糖分を貯蔵し、零下でも凍結せずに残った水分と貯蔵栄養で越冬することができるのです。

同じ紅葉でも、落葉前より糖分をたっぷり蓄えた落葉後の方が耐寒性が高いのはそのためです。

4. 寒さに強いものと弱いもの

盆栽を育てる上では、植物の自生地の環境を知ったうえでどの程度の寒さや暑さに耐えられるのかを把握しておく必要があります。

盆栽樹種をマツやヒノキなどの針葉樹、モミジやケヤキなどの落葉樹、クチナシや柑橘類などの常緑樹に分けたとき、耐寒性の強いもは針葉樹>落葉樹>常緑樹という順になります。

針葉樹は根が完全に凍らない限りはどんなに寒くても冬を越すことができます。

次に落葉樹ですが、葉が付いている時期では氷点下1℃~3℃で寒害を受けるものの、落葉後は耐寒性が増して氷点下10℃を下回っても耐えられます。

寒害

寒害を受けた熱帯・亜熱帯原産のフクシア

これに対して一年中葉をつけている柑橘類や暖地性の樹種は寒さに弱く、零下になるとたちまち葉や根を傷めてしまいます。

また寒さに強くてもサイズの小さいものや、秋に強い剪定や針金を掛けたもの、枝が細く出来ているモミジ、ケヤキ、チリメンカズラなどは早めの保護が必要です。

寒さに強い樹(耐寒性)

寒さに強い樹種

寒さに強い樹種は霜、風対策をしておけばOK

針葉樹や落葉後の雑木類は耐寒性が強く、氷点下20℃程度まで耐えられると言われています。

クロマツやシンパクなど多くの松柏類を始め、落葉性の雑木類やイチイ、カリンなども寒さに強い樹種です。

これらは凍結や霜に当たっても日中溶けさえすれば平気で、乾燥した風に当てないようにすれば特別な保護なしでも越冬できます(小さい樹は別)。

黒松赤松五葉松蝦夷松真柏一位(イチイ)唐松、欅、紅葉(落葉後)、錦木、小楢、姫沙羅、黄梅、藤、木瓜花梨など

やや寒さに強い樹(半耐寒性)

やや寒さに弱い樹種

半耐寒性の樹種は、不注意で寒害がでることも

やや寒さに強い半耐寒性の樹種は、氷点下7~8℃程度を限界に耐えることができます。

ヒノキやツツジの仲間を始め、花物類(落葉性)がそれに該当します。

スギやヒノキ、シンパクなどのヒノキ科の仲間は霜に当たると葉が褐葉することがありますが、温かくなると自然に元に戻ります。

暖地性のクチナシも葉の水分を失ってやや萎れますが、よほど寒い地域を除き寒さが原因で枯れることはほとんどなく、気温の上昇とともに元に戻ります。

ただし、同じ樹種でも小さな盆栽や樹勢の落ちたものは寒さに弱いですし、暖地で育ったものを持ち込んだものと、寒地で育って寒さに慣れたものでは耐寒性が異なります。

杜松檜(ヒノキ)米栂(コメツガ)ピラカンサ梔(クチナシ)、柿、椿、桜、梅、銀杏(イチョウ)、ハゼ、躑躅(ツツジ)、皐月、山茶花(サザンカ)、深山キリシマ、桑、沈丁花、海棠、真弓、御柳(ギョリュウ)、ブナなど

寒さに弱い樹(非耐寒性)

寒さに弱い樹種

寒さに弱い樹種は早めにしっかり保護を

温暖性の樹種などは寒さに弱いので必ず屋内や簡易ムロに取り込み、鉢が凍らないような保護をしてください。

キンズやブッシュカンなどの柑橘類や、チリメンカズラ、ザクロなどの枝の細いものは寒さに弱いので、寒い地域なら室内管理が安心です。

暖地でも零下が続く地域は発砲ケースに入れたり、ビニールを二重にしたりと、乾燥した外気や寒さに当てない工夫が必要です。

柑橘類(キンズ、ミカン、キンカン)、姫リンゴ、石榴(ザクロ)ハマボウ梅擬(ウメモドキ)紅紫檀(ベニシタン)縮緬葛(チリメンカズラ)、磯ザンショウ、ガジュマル、ブーゲンビレア、フクシア、椿の園芸種、針蔓柾(ハリツルマサキ)、台湾ツゲ、百日紅(サルスベリ)山桜桃(ユスラウメ)、木通(アケビ)、蔦類など

四季のある場所に生息する植物は、最も日が短くなる冬至(12月21~22日頃)の時期から冬に備える動きを見せますが、一定の寒さに晒すことで冬の到来を知らせ、寒さが最も厳しくなる時期に向けて耐寒性をあげさせる支度をさせます。

人間の感覚で暖房のある部屋で保護しようとすると、翌年の芽出しやその後の成長に悪影響を及ぼしますから、一定の低温下で休ませるつもりで保護をしてください。

ただし、寒さに弱い柑橘類や暖地性の樹種は1ヶ月ほど早め(11月中~下旬頃)の防寒が必要で、特に寒さの厳しい寒冷地では室内で加温が必要な場合もあります。

4. ムロ入れ前の準備

防寒のためムロや屋内に取り込んだ盆栽は、風通しが悪くなりがちで病気や害虫が潜伏しやすい環境でもあります。

一定の湿度と温度が保たれたムロの中は病害虫にとっても快適な潜伏場所になるので、歯ブラシなどで幹や根張り部分を磨き、表土や幹を覆う苔や汚れも綺麗に取り除いておきましょう。

ムロ入れ前の掃除

ムロ入れ前の幹掃除。シャリの境目も綺麗に掻きだして、石灰硫黄合剤を塗っておきましょう

元からジンシャリのあるシンパクやトショウ、イチイやウメなどは、剥皮部分と水吸いとの境目に越冬虫が潜り込んでいる場合がよくあるので丁寧に掻き出してください。

同時に石灰硫黄合剤でジンやシャリ部分を塗り直し、腐食を防止しておきましょう。

既にあるシャリやジンには原液塗布でも平気ですが、新しい部分には2倍~10倍液程度が安全で、白浮きしすぎない良さがあります(墨汁を混ぜることもあります)。

特に剥皮したばかりのものは、形成層から木質部に薬剤が染みこんで芽先を痛めるので、傷口を癒合剤で保護してから希釈した石灰硫黄合剤を塗るか、肉が巻くまで接木テープで保護しておいてください。

病害虫対策

低温順化により細胞壁が肥厚する休眠期間中は、浸透性の高い薬液も高濃度で使用できるため、駆除しきれなかった越冬病害虫を根絶するチャンスです。

病害虫対策をしていないと、冬の間の潜伏期間が過ぎて暖かくなってきた時に被害は一気に出てきますから、ムロ入れ前と寒中(2月頃)の最低2回は必ず全ての樹を消毒・殺菌し病害虫を駆除しておいてください。

石灰硫黄合剤(多硫化カルシウム)

越冬病害虫の防除に効果のあるものとして定番の薬剤に石灰硫黄合剤があり、果樹類を主とする農作物をはじめ、盆栽界でも生産者や愛好家の間で使用されています。

希釈倍率は趣味者によって違うようですが、落葉樹では50倍、その他の常緑樹では60~80倍(松柏類は30~40倍でも可)くらいを目安に水で希釈して使用してください。

石灰硫黄合剤

値段は10L(リットル)で2千円~3千円程。宮内の硫黄合剤株式会社やさくら化興などのメーカーがあります。

強アルカリ性で扱いに注意が必要なため少量での規格販売は禁止になっていて、現在は10L容量からしか購入できないので愛好家同士で分け合って使われることが多いようです。

小分けにする場合は、ラベルを貼ったガラス瓶に入れて冷暗所保存。ペットボトルに入れると容器の劣化や誤飲の危険があります。

石灰硫黄合剤を使った消毒の手順

石灰硫黄合剤を水で希釈し、地上部に散布、塗布、ドブ漬けなどで被膜を作らせます。

散布する場合は周りへの配慮が必要で、小品サイズならドブ漬けが一般的。常緑の場合、丁寧にやる人は葉に付くのを避けて筆(アクリル製)で幹枝に直接塗ったりもします。

溶液はそのまま使用しても良いですが、ダイン等の展着剤を加えておくと水弾きがなくしっかり付きます。

ドブ漬けした後は鉢や土に薬剤が染みないように水気を切ったり横に転がしたりして、陽の下でしばらく乾かしてくだい。しっかり乾かすことで表面に薬剤の皮膜ができて効果が持続します。

乾いて2~3日もすれば樹全体が真っ白になりますが、水やりの度に自然に取れるので心配いりません。

石灰硫黄合剤

横にして天日で乾燥

石灰硫黄合剤は園芸用にも使われる入手の用意な農薬ですが、強アルカリ性のため取扱には注意が必要です。強い硫黄臭がする上、皮膚や目に入ると危険ですから、できるだけ風のない換気のできる空間で使用してください。

浸透性が強く、皮膚や眼などをおかしやすいので、厚手のゴム手袋はもちろん、マスクやゴーグル等を必ず着用しましょう。

その他の殺虫殺菌剤(混合剤)

主な消毒薬

強い硫黄の匂いがする石灰硫黄合剤は、住宅事情によっては使用を控える必要があります。

石灰硫黄合剤を使わない場合は、一般家庭でも使いやすいサンヨール(有機銅系殺菌殺虫剤)やGFオルトランC(アセフェート系殺虫殺菌剤、)ダイセン系の保護殺菌剤などをムロ入れ前の消毒薬として代用することができます。

サンヨール液剤(殺虫殺菌剤)

有効成分:ドデシルベンゼンスルホン酸ビスエチレンジアミン銅錯塩

サンヨール液剤

匂いも優しいので使い勝手がよく、冬だけでなく年中使えます。そのまま散布するスプレー式と、原液を希釈するタイプもあります。

越冬病害虫対策にも使用されますが、効果の持続性はやや弱め。その分定期的に散布し、他の薬剤と交互に使うとなお効果的です。

効果のある害虫:アブラムシ類、コナジラミ、チャドクガ、マイマイガ、ナメクジ、カイガラムシなど
効果のある病気:うどんこ病、べと病、葉かび病、灰色かび病、白さび病、黒星病、褐斑病

GFオルトランC(殺虫殺菌剤)

有効成分:アセフェート・MEP・トリホリン

GFオルトランC

広範囲の病害虫に効果のあるエアゾルタイプの病害虫防除剤。

オルトランとスミチオンの他、うどんこ病や黒星病にも効く殺菌剤のサプロールが配合されていて、広い範囲の病害虫に対して速効性を示します。

効果のある害虫:アブラムシ類、グンバイ虫、ケムシ・アオムシ類、チャドクガなど
効果のある病気:うどん粉病、黒星病のほか広範囲の越冬病害虫

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