植生と盆栽
投稿日:2022/06/06

盆栽樹種の中には、日照を好むマツ類の他、林床など比較的暗い場所でも効率よく光合成ができる雑木類や、涼しい場所を好む高山~亜高山の針葉樹など多様な植生の植物があります。
生育に適した環境は植物によって異なりますが、盆栽に作られる樹種は基本的に丈夫で育てやすいものが多く、多少の環境変化に順応できる能力を備えているので、置き場所や培養方法を工夫すれば同じ培養場で育てることは充分可能です。
しかし、自生地の環境が極端にかけ離れた植物を一緒に育てることには限界があり、さらに多様化する住宅事情の中では、庭の隅や日当たりの悪いベランダなどでやむを得ず育てているという人も多いため、育てられる樹種はどうしても絞られてきます。
植物が本来好む環境はそれぞれ異なるため、その特徴を知ることは培養面の大きな指針になります。
まずは自分の棚場環境を把握し、どんな樹種が培養に適しているかを知ると同時に、よりよい条件に改善しようとする姿勢を持つことが大切です。
1. 日本の植生帯
「植生」とは、植物をマツやスミレなどといった個々の種や個体として見るのではなく、その場所に成立する個体群を全体的にとらえたもので、植物生態学では群落(植物群落)とも呼ばれます。
植生の成立は、緯度に応じて変化する「温度要因」と、乾燥中心から湿潤地帯にかけで変化する「乾湿度要因」という2つの気候要因が関係していて、南北に長い日本の場合は温度要因には大きな幅があるものの、乾湿度要因では湿潤気候帯に属しています。
気候的に見ると、雨量が十分な日本は、森林限界以こでも森林が成立し得る範囲にありますが、山岳地帯が国土の70%を占める日本の場合は、その複雑な地形ゆえに多様な気候帯を持ち、そこに成立する植生も地域によって様々な組成を示しています。
2. 植生の推移

日本の植生の推移の例(イラストは盆栽世界2021年9月号に記載)
植生帯の構造は気候や土質、地形、降水量などの外因的な環境条件の他、植物個体群間の競争や人為的な介入など様々な要因によって支配され、長い年月をかけてある決まった方向へと遷移していきます。
遷移の初期は、溶岩流などによってできた裸地などで、地衣類やコケ植物などが進出し、その死骸が土壌となります。
薄い土壌ができると、最初に一年生の植物(草)が侵入し、次第に多年生の草が多くなってきます。そして土壌環境が整ってくると、日当たりを好み乾燥や寒さにも強いヤシャブシやウツギ、クヌギ、アカマツなどの陽樹が低木林→高木林(雑木林)を形成し、陰樹が生育できる環境を整えたあと減退・消滅します。
これは陽樹の高木林が育つにつれ、採光が遮られた林床では陰樹しか育たなくなるためで、陽樹の衰退に伴って陰樹が成長し、最終的には陰樹の高木林に落ち着くようになります。
その遷移が安定に達した植生を極相(クライマックス)と呼び、温暖帯~暖帯ではシイ類やカシ類などの常緑広葉樹、冷温帯~温帯では落葉広葉樹林のブナ林や照葉樹林のスダジイ林などが極相にあたります。
これに対し、遷移の途次にあるものを途中相と呼び、極相よりも幅広い分布域を持つアカマツ林やシラカバ林、コナラ林などはたいてい途中相にあたります。
温暖帯から冷温帯北部にかけて分布が見られるアカマツ林は途中相林の代表で、平地から山地帯上部と温度反応の幅が広く、さらに遷移の初期にあたる草原になると、反応の幅は一層大きくなります。
垂直分布と水平分布

垂直分布でみた植生(関東~中部) イラストは盆栽世界2021年9月号に記載
日本の森林分布を水平方向でみると、南から順に亜熱帯(常緑広葉樹林帯)・温暖帯(照葉樹林帯)・冷温帯(落葉広葉樹林帯)・亜寒帯~寒帯(常緑針葉樹林帯)という植生帯になっていて、この緯度に伴う植生を「水平分布」と呼びます。
温度要因に大きく支配される水平分布は、標高に対する「垂直分布」ともかなりよく対応していますが、これらの分布形態は様々な環境勾配や季節性、種間関係とも深く関与しているため、植生の様相や占有種などには多様性があります。
私たちが植物を培養する際には、その樹種の植生を知り、どのような環境を好むのかを理解した上で、適した環境をできる限り用意してあげられるように心がけたいものです。
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