盆栽を育てる場所
投稿日:2011/03/09 更新日:2022/05/31
みなさんが盆栽を置いて育てている場所は、どんなところでしょうか?
お庭のある家なら1番日当たりのいい場所が確保できますが、マンションやアパートなら盆栽のために確保出来るスペースは限られますし、風通しや日照条件は物件により違います。
それぞれ条件は異なりますが、綺麗に整頓された合理的な盆栽棚を工夫すれば、わずかなスペースでも良い樹を作ることができます。
限られた条件の中で、常により良い棚場環境に改善できるように心がける姿勢を持っておくことが大切です。
C o n t e n t s
1. 盆栽樹種は日光を好むものがほとんど
盆栽に作られる植物のほとんどは光の要求度が高い陽生植物(陽樹)で、日中よく陽の当たる明るく風通しの良い場所を好みます。
斑入り園芸種やアオキ(写真)、ヤブツバキ、ツガ、アスナロのように強い光を好まない樹種もありますが、一般に「半日陰でも育つ」と言わる樹種は明るい場所を好むものがほとんどです
中にはそれほど光を必要としない陰生植物(陰樹)や、中間的な半陰生植物(中庸樹)も存在しますが、これらの樹種は光が少なくても生育できるというだけで、実は明るい場所を好むものがほとんどです。
光合成には日光が必要不可欠である以上、日照時間の確保はどの植物にも必須の課題となります。
ただし、日当たりがいいほど乾きも早くなるため、日中不在の多い現代人には管理が難しくなるという問題も...。その場合はむしろ日照時間は短い方が育てやすく、管理次第では銘木を作ることも可能です。
日当たりのいい場所での培養は締った良い樹を作る大事な条件ですが、事情により日照条件があまりよくない場合はせめて午前中だけ、最低でも3時間以上は陽が当たるように工夫してください。
盆栽に必要な光の強さは?
植物は、光のエネルギーを利用して、根から吸った水と空気中の二酸化炭素を原料に光合成を行い、生命活動に必要な有機化合物を合成しています。
光合成ができる限界の明るさ(光補償点)は、樹種による性質の違いや個々の植物が持つ適応力など様々な要因があるため明確な区分けはできませんが、一般的に陽性植物では1,000~2,000ルクス、陰性植物では100~500ルクス以上の光が最低限必要と言われています。
植物は日中、光合成と呼吸の両方を行っていますが、明るさが光補償点まで下がると二酸化炭素の吸収量(光合成)と放出量(呼吸)が±0になり、さらに下がると呼吸のみを行うようになります。
このように植物は光合成と呼吸を行うことによってエネルギー代謝を繰り返していますが、光の量が不足した状態が続くと、植物は炭水化物を合成できずにやがて枯れてしまいます。
また、陰樹は陽樹よりも光補償点・光飽和点が低く、少ない光の強さでも生命活動が維持できますが、光の強さが飽和点を超えると光合成速度も上がらなくなり、光障害を引き起こすものが現れるので注意が必要です。
【陽生植物と陰生植物の光合成速度のグラフ】
真夏の直射日光の強さを150,000~200,000ルクスとした場合、盆栽の健全な生育には35,000(常緑樹)~40,000ルクス(落葉樹)程度に光を調整する必要があります。
葉焼けを起こした姫ウツギの葉。光が強すぎると葉が傷み、枝枯れも起こしやすくなります
充分な日照は枝葉のいたずらな伸長を抑える効果もありますが、光が強い状態が続くと光合成速度が飽和状態(光飽和点)となる植物がではじめ、使い切れない光エネルギーが葉の中で活性酸素を生じさせ葉焼けを起こす危険があります。
30,000ルクスを超えると生理障害が出るものもありますから、夏は70~80%程度の遮光ネットを設置し、強すぎる光や高温から樹を守ってあげてください。
大きめサイズのマツ類やシンパクなどは真夏の炎天下でもよく育ちますが、小さい樹はかかるストレスも大きいですから遮光下に置いたほうが安心です。
左は日差しの強い7月下旬(午後2時頃)の照度計の数値。関東平地の炎天下では約20万ルクスまで上がり、植物の生育にも危険な光の強さであることが分かります。
右は遮光率70%の遮光ネット下の数値(同日同時間)。瞬間的に5万ルクスを超える時もありますが、ほぼ理想的な光の強さが維持できているようです。
2. 盆栽置き場の条件
理想的な盆栽置き場の一例(イラストは盆栽世界2021年9月号に記載)
日当たりがいいこと
日当たりの確保は盆栽を育てる上で1番大事な条件。
特に盆栽はそのほとんどの樹種が好光性の植物なので、日当たりがよくない場所でもせめて午前中だけは充分に光が当たるように配慮したいものです。
庭やベランダの方角は南~南東向きが理想で、前方に光を遮る建物や障害物のない場所であるかを確認してください。
西側には強い西日を遮る植栽があればなおよく、落葉樹であれば冬は葉を落としますので棚場全体に光が入り、芽出しの助けにもなります。
ただし、、近年は夏の暑さが異常な日が続きます。
5月頃から軽い遮光が必要な場合もありますので、棚場には日除けを着脱できるような枠組みを作り、夕方にはネットを畳んで夜露に当てたり、日除けが不要な季節は簡単に外したり出来るようなつくりにしておくと便利です。
風通しがいいこと
植物は光合成の産物として、葉から水分を蒸散して健全な発育を維持しています。
枝葉が混みすぎていたり障害物などで風通しが悪いと、湿気や熱気がこもって生理障害を起こし、枝枯れや根腐での他、害虫や病原菌の発生源にもなってしまいます。
対策としては、鉢と鉢との間隔をあけたり、建物や壁から離したりして新鮮な空気が盆栽の間を通り抜けるようにしてあげてください。
日差しが強いからといって室内に盆栽を避難させる人がいますが、急激な環境の変化で生理機能のバランスが崩れ、衰弱してしまう危険があります。
強すぎる西日や風の時は、防護策を取る必要がありますが、自然環境に順応しながら成長するのが植物ですから、できるだけ自然条件のもとで管理するように心がけましょう。
便利なこと
盆栽は、鑑賞の楽しみはもちろんですが培養の楽しみが大きいと思います。
毎日見回って水やりしながら、1つ1つをよく観察することは、樹勢の変化や病害虫の発生にいち早く気付くことにも繋がります。
盆栽を管理するのには、手近な場所で目がよく届き、生活の邪魔にならず、日当たりの調整が簡単で、水やりもしやすい場所が理想。
新たに物件を探す方は、庭やベランダに屋外水栓があるかも大事なチェックポイントです(ない場合は、風呂場などから水が引けるかも確認したほうがいいと思います)。
また、最近は盆栽の盗難被害の数も多いと聞きますので、防犯ライトや防犯カメラの他、棚場に侵入防止の砂利を敷くなどの盗難対策も常識になってきています。
住宅環境によって工夫を
結論を言えば、植生が極端に異なる植物を同じ条件で育てることは難しく、特別な設備がない限り寒冷地の植物に暖地の夏を越させたり、暖地の植物に寒冷地の冬を越させたりするのは不可能です。
ですが、日照時間や風通し、暑さや寒さの対策は改善が可能で、工夫次第でいろいろな樹種を培養することもできます。
雨量が多く湿度の高い日本の場合は、日照時間と風通しをいかに確保できるかが重要。理想的な培養場は、朝から夕方まで棚場全体によく陽の当る南向きの場所で、午後のみ陽が射す西向きや、1日通して日当たりが悪い北向きのベランダなどは盆栽の培養場として好ましくありません。
また、高い建物に囲まれた場所も日差しを遮るばかりか、風通しも悪く湿気や熱気が溜まるのでできるだけ避けたい場所です。
ただし、住宅事情により棚場の環境は様々です。理想的とは言えないような場所でも、最低1日3時間以上は陽が当たるように工夫し、比較的陽が射す場所にはマツやシンパクなどの松柏類を、日陰になる場所には葉もの類や高山植物、山野草などの半陰性樹種を配置し、樹と樹の間隔は充分にとって風通しをよくするようにしましょう。
十分な日当たりがどうしても難しい場合は、光の要求度が低い陰樹や、半耐陰生の植物をメインに育てるという選択肢もあります。
マツやシンパクなどの陽樹を陽の当たらない場所におくと、不足した光を求めて葉が長くなり、次第に枝が軟弱になって病気にかかるなどの培養トラブルが発生しやすくなります。
生かすことはできても盆栽として維持することが難しいため、棚場の環境に合わない樹種はなるべく避け、相性のいい植物を選ぶようにしましょう。
3. 樹種別の適した環境は?
松柏類
花のように美しい新芽が魅力のカラマツは、寒地や高山~亜高山帯に自生するため平地での培養が難しい樹種の1つ。陽樹で光の要求度が高い割には暑さに弱い(高山の特徴)ため、いかに夏場を涼しく過ごさせるかが課題になります
松柏類は日光を好む樹種がほとんどで、締った枝葉を充実させるためには、年間を通じてよく日の当たる場所で管理する必要があります。
ただし、同じ松柏類でも樹種によって適した日照条件は異なり、クロマツ、アカマツ、ニシキマツ、シンパク、トショウなどの陽樹は特に日照を好みますが、スギやヒノキ・イチイなどは陰樹ですから、それほど日当たりを優先しなくてもよく育ちます。
また、寒地や標高の高い場所に自生するゴヨウマツや、エゾマツ、カラマツ(写真⑤)、コメツガなどの暑さに弱い樹種は、日差しが強くなる5月中旬頃からは日よけの下で涼しく過ごさせるようにしてください。
エゾマツやコメツガ、トドマツは条件的陰生植物で、幼齢期は半日陰~日陰を好みますが、大きくなると陽樹の性質を示すようになります。
基本的には松柏樹種は明るく風通しの良い場所が最適ですが、一般的に苗木やミニサイズの樹は強い光を苦手とする場合が多いので注意が必要です。
葉もの・雑木類
ヤブサンザシ(写真)のように、名前に「藪」が付く植物は比較的日陰を好むものが多いです
光の要求度は松柏類ほど強くないので、日差しが強くなる季節は半日陰で管理してください。
モミジのように葉が柔らかく薄いものは光障害を起しやすいですが、本来は明るい場所を好むものがほとんどで、ケヤキやニレ、コナラ、唐カエデ、イチョウ、シデ類などは日照を好む陽樹に該当します。
葉焼けを恐れて日陰で育てられることがある葉もの・雑木類でも、実は好光性であることも多く、節間の短い枝を充実させるためには光も重要ですから、できるだけ明るく風通しの良い場所を用意するようにしましょう。
葉焼けに注意が必要なものは、モミジ、ヒメシャラ、ハゼ、ツタなど。ケヤキは身近に植樹されている樹種ですが、本来は山地帯の森林を構成する主要樹種で大気汚染や暑さに弱いところがあるので注意してください。
シイ類、カシ類、ブナなどは極相林を代表する陰樹ですが、夏の西日を避ければ他の葉もの樹種と同じ培養場所で育ちます。
花もの類
日照を好むサクラ。水切れは注意が必要ですが、花芽形成のためには多少葉焼けしてもよく陽に当てて枝を充実させる必要があります
日当たりを好む陽樹がほとんどで、花芽形成のためには十分な日照の元で枝葉を充実させる必要があるため、日当たりと風通しの良い場所を確保してください。
日照を好む樹種には、サクラ(富士桜を除く)やウメ、レンギョウ、フジ、サンザシ、サツキ、ザクロ、オウバイ、バラ、ボケ、チョウジュバイ、ライラックなどで、光が不足すると葉が多くなったり大きくなったりして、枝が軟弱になってしまいます。
7月いっぱいまではできるだけ明るい場所において、日差しの強い時期は葉焼けを起こさない程度の保護が必要になります。
半陰性の樹種にはツバキやサザンカなどの照葉樹の他、ナンテン、コブシ、アジサイ、アセビ、トサミズキ、ハギ、マンサク、ムラサキシキブ、ウツギ、ミツマタなどがありますが、陰樹でも盆栽として作る場合はある程度の日照が必要ですから、日差しの強い時期以外はよく陽に当てるようにしてください。
実もの類

花もの類と同じく、花を咲かせて実を維持するためには充分な日照が必要になります。
実ザクロやブルーベリー、コトネアスターなどの暖地性樹種や、ピラカンサやカリンなどのバラ科樹種、ニシキギ属のマユミやツリバナ、ウメモドキなどは陽樹に分類されますから、できるだけ明るい場所におくようにしてください。
半陰性~陰性の樹種にはクチナシや美男カズラなどの照葉樹の他、アケビやエゴノキなどがあり、葉もの類と同じ棚場条件で管理できます。
水や肥料を多く必要とする花もの実もの類は、病害虫が付きやすい樹種が多いので、風通しにも充分な配慮が必要です。
山野草
ネコノメソウ(写真)やカラマツソウ、コマクサ、ザンセツソウなどの高山植物は種類も豊富で人気が高いのですが、平地での夏越しが難しい面があります。
平地や山野に普通に観られる身近な種類の山野草は、非常に丈夫で管理にさほど気を遣う必要はありません。
置き場所は本来自生している環境によって違いますが、マツ類ほどの日照は必要ないので、あまり日当たりがよくなく、樹を置くには不向きの場所でも、風通しさえ確保できれば山野草コーナーとして利用できます。
基本的には水切れさえなければ無肥料でもよく、小鉢で培養することでよく締まって雰囲気がよくなります。
ただし、夏場は蒸れで根や地上部が溶けてなくなってしまうこともよくあるので、直射日光は避け、遮光下で水やり頻度を少なめに管理してください。
特に高山性のものは平地の夏の暑さや蒸れに弱いので、いかに夏を涼しく越させるかが課題になります。寒冷地の生産業者でも夏は空調管理が必要なものもあると聞きますから、近年の温暖化の加速を考えると益々平地での持ち込みは難しいのかもしれません。
4. 培養場の工夫
日当たりと風通しをよくする工夫
樹が増えるとどうしてもギュウギュウに置きがちですが、樹と樹の間隔を適度に取ることで全体に陽がよく当たり、蒸れや病害虫予防にも繋がります
光の要求度に限らず、盆栽を置く場所は日当たりの良い場所を用意することが大前提で、その善し悪しは盆栽棚の配置や樹の並べ方によっても変わります。
日照をよくするためには樹を平面的に並べるよりも、高台の設置やひな壇式にして立体的に配置するようにすると光が全体に当たりやすく、樹と樹の間隔を充分に取ることで風通しも改善され、蒸れや病害虫の発生を抑えることができます。
また、細長い棚板を使う場合は南北方向に長く置くことで秋~冬期の日照が均一に当たるようになります。
棚場の環境は各人の住宅事情により様々ですから、必ずしも理想通りにできるとは限りませんが、わずかなスペースでも工夫次第で効果的で見た目にも美しい培養場所を作ることができます。
温度上昇を抑える工夫
素材にチタン顔料や温度上昇防止剤が使われている遮熱シート。ネットの下は体感的にも涼しく暑さに弱い樹種にも一定の効果を感じます
光は強すぎても弱すぎても植物の健全な生育に悪い影響を及ぼしますから、樹種の耐陰性や季節に応じて光の量を調整するようにしましょう。
管理が難しいとされる高山や寒冷地の植物は、実は日当たりを好むものが多いため、暑さに弱いからと光を遮断すると生育に悪影響を及ぼします。
暑さに弱い樹種は、鉢内の温度上昇や蒸れに弱いため、日当たりを確保しながら、いかに涼しくすごさせるかが課題となります。
温度上昇を抑える効果のある遮熱ネットや寒冷紗など白色の材料を使ったものは、遮光効果もありながら光の拡散効果で充分明るく、日照を好む盆栽の日よけアイテムとしてお勧め。
真夏の遮光には通常の遮光ネットが頼りになりますが、設置方法を収納しやすいカーテン式や脱着式にするなどして、季節や天気によって対応できるようにすると完璧です。
高機能活性剤や人工太陽光を取り入れる
近年愛好家の間でも取り入れられはじめているサーモテック。乾きが気になる小さい樹や、夏越しに不安のある寒冷地の樹種などに使われています。
室内で育てられる観葉植物(陰樹)と違って、より多くの日照を必要とする盆栽は、年間通して自然環境の下で管理することが第一前提にあります。
しかし、地球温暖化により世界の植生も変化していて、これまでの管理方法では育てられない農作物や果樹が出てくる可能性があるため、植物の高温ストレス耐性を向上させる研究が注目されています。
植物の耐暑性や耐乾性を高める効果があるとされるサンギナリン剤やイソチオシアネート剤の他、盆栽やバラ科植物用に開発された高機能植物活性剤(サーモテック)などが作られていて、夏の遮光や水やりの軽減が期待できる農薬として、一部の愛好家の間でも使用されています。
その他、室内でやむを得ず盆栽を育てる場合には、観葉植物用の植物育成ライトや盆栽育成用の人工太陽灯なども開発されています。
外の太陽光で育てる良さは何ものにも代えがたいものですが、鉢数が少なく、室内で盆栽を楽しみたい人は試してみても良いかもしれません。
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