松柏類の樹形作りには特に針金かけが重要な役割をしています。
松柏類は全体の枝の力を平均化しながら樹形作りをすることが大切ですが、芽摘みや剪定だけではなかなか樹形が整わないものです。
針金をかけることによって、かけた枝の矮化を図りながら樹形作りができるので比較的短期間で完成樹に近づけることができます。
各枝への採光や風通しをよくし、一本一本の枝に力を付けるためにも積極的に針金かけに挑戦してみてください。
松柏類の針金かけは、休眠期中の秋(10月~11月)と早春(3月~4月)に行います。
休眠期間は樹液の流動が少なく、針金かけによる損傷を最小限に抑えることができ、剪定も同時期に実施できるので効果的に作業を進めることができます。
ただし休眠期間中でも厳寒期に強い針金かけをすると、損傷部が治らずそのまま枯れることがあるので、特別な保護室が無い限りは控えてください。
松柏類への針金かけは、木質部と形成層が密着している秋~冬の時期に行うと効果が高くなります。
厳冬の間を避け、秋か2月~3月頃に行うことが普通です。
業者では生育期寒中に針金をかけることもありますが、この時期は樹皮と木質部の間に隙間ができていて針金が効きにくいです。
さらに体内には樹液が多く蓄えられているので、針金掛けにより傷付いた場合にヤニで樹皮が汚れてしまうことがあり、生育期の針金掛けは避けられています。
ただし寒さに弱いスギやトショウは暖かくなってから行います。
どうしても生育期間中に行いたい場合は無理に曲げず、適期にしっかり整枝するつもりでいてください。
樹 種 |
針金掛けの適期 | ポイント |
---|---|---|
クロマツ | 10月中旬~11月 2月下旬~3月 |
成長が止まる秋と、新芽が伸びる前の2月下旬~3月の間がよい 若い木は1年、老樹は1~2年で外す。 |
アカマツ | 10月中旬~11月 2月下旬~3月 |
クロマツより枝は柔らかく曲げやすいが弱いので丁寧に。 幹や太枝は1~2年、小枝は1年以内に外す。 |
ゴヨウマツ | 10月~3月 | 幹や枝が柔らかいのでやりやすい。 幹や太枝は1~2年。若い枝は1年で外す。 |
ニシキマツ | 10月下旬~11月 2月下旬~3月 |
綿化しているところにはかけないように。 若い枝のみにかけ、1年以内に外す。 |
エゾマツ | 10月~11月 2月~3月 |
枝は柔らかく折れにくいが、くせがつきにくい。 1年掛けたままにしていてもくせがついていなければかけ直す。 |
ス ギ | 5月~6月 | 冬は枝が折れやすいので暖かくなってから。 成長が早いので食い込む前に外す。 |
ヒノキ | 5月~6月 | 枝が強く針金が効きにくい。 |
シンパク | 10月~3月 | 枯れることはあまりないが枝が裂けやすいので注意しながら。若木のうちに行う。 1~2年で外す。 周年できるが、杉葉が出ているうちはかけない。 |
トショウ | 3月~6月 | 古くなると幹や枝が硬くなるので若木のうちに基本樹形を作る。 若木は3月から。老樹は5月頃から可能。 10月頃には外す。 |
イチイ | 2月~3月 10月~11月 |
樹皮が薄いので傷つきやすく、くせもつきにくい。 成長が遅いので1~2年はそのままにする。 |
まず生育が止まり休眠期に入る10月~11月の間は、若枝や細枝などへの比較的軽い矯正ができます。完成樹や完成樹に近いものの樹形を整えるような場合は最適です。
この時期に強く曲げると、寒害の影響を受けやすくなるので無理をしないようにしてください。
太い幹や枝に強い矯正をする場合は3月~4月上旬に行います。
この期間は生育が始まり癒合組織の形成が活発なため、多少の損傷でも傷の治りが早いと考えられています。
根の強剪定をする植え替えの適期が早春に多いのもそのためです。
ただしこの場合も一度で無理に曲げようとせず、数年かけて徐々に曲げるつもりで実施してください。
部分的に矯正をしたい場合は、針金かけだけでなく麻紐などで引っ張ったり吊るして形を作る方法もあります。
将来の樹形構想がまとまらないまま針金かけをしてもいい樹には作れません。
たしかに枝を下げたり曲げたりは簡単にできますが、中途半端な考えから急いで針金をかけてしまうと反って遠回りになります。
針金かけは目的の樹形がはっきり決まってから、曲げる方向や矯正する位置を定め、樹を痛めない範囲で徹底的に実施して効果がでるものです。
まず素材をよく観察して、樹形構想が決まってから適期に針金かけを行って下さい。
針金の太さは針金かけで説明したように、枝に対して適当な太さの針金を使ってください。
針金の太さは、その枝が曲がる範囲で細めのものを使います。
細すぎると効き目がないですし、太すぎると曲げにくくなってしまいます。
枝が太すぎて適当な針金がない場合は2本かけをします。
また、針金が長すぎると枝に絡まって折れたり、作業がしにくくなります。
針金の長さはかける枝の長さの1.5~1.7倍の長さで予め切って使ってください。
一度に急にきつく曲げると折れたり、傷付いた所からヤニを吹いて樹が弱り、枯れることがあります。
強い針金かけは2月~3月上旬頃が適期ですが、無理はせず数年かけて曲げたい位置まで曲げるようにしてください。
針金をかけてから曲げると食い込んだり緩む
針金かけは、曲げる角度や位置が決まったら、まず枝を指で曲げて慣し、固定するように巻き上げていくのが正しい方法です。
先に針金をまいてから曲げようとすると、枝自体がどのくらいの曲まで耐えられるか把握出来ていないまま針金で強制的に曲げることになるので、組織を傷めてしまいます。
また、曲げたところに針金が強く食い込んで生育不良や枯死の原因になったり、内側の部分の針金が緩んで効き目が無くなってしまいます。
鉛筆大以下の細い枝にかける場合は針金を先にかけたあとに曲げつけてもよいですが、針金かけは針金を使って曲げるのではなく、指で曲げながら固定するものと理解しておいてください。
芽や枝葉に注意してかける
作業中に針金を引っかけて枝を折ったり、葉や芽をつぶさないようにしてください。
針金が枝や葉を巻き込んだり、芽に当たらないように注意しながらかけていきます。
枝葉の密生しているところは特に難しいですが、焦らず時間をかけて一巻き一巻きを丁寧にかけてください。
慣れないうちは針金をかける時のテンションがよく分かりません。
あまり弱くかけてしまうと効果がでませんが、反対にきつくしずぎると組織を潰して樹の生育を妨げてしまいます。
幹に傷がついて美観上もよくないので、適当な力で枝に針金を沿わせながらかけてください。
針金がかかった状態は仕立て途中のものではありますが、一種の鑑賞上の美観を添えるものでもあるのでできるだけ美しくかけるのがよいです。
間隔が一定で、枝先に行くほど細かく、かつかけ始めと終わりの止め方を綺麗にまとめる必要があります。
個人で楽しむ範囲ならと粗くかけたくなりますが、針金かけは時間と手間をかけて一枝一枝にしっかりかけることでいい樹になるのでやるならしっかりかけるようにしましょう。
針金かけの要点は樹齢別で段階的に目的が違います。
どの場合も日頃から肥培管理をしっかり行い、樹に十分力がついていることが第一条件です。
若木への針金かけは主に幹模様を作るために行います。
コケ順をよくするため、芯となる部分を欲しい高さで着り戻すことが普通ですから、針金かけは部分的に行うことになります。
枝の配置を矯正したり芯を立て替えるときに針金かけをします。
すでに幹模様はある程度出来ているはずなので、強い矯正は必要ありません。
幹や主要な枝は整っているので、小枝を中心に全体の樹形を整えるための針金かけを行います。
小枝の先まで神経の行き届いた細かい針金かけが必要です。
古木感を出すため枝を下げることも必要です。
しかし小枝の先まで下げてしまうと生育不良が起こりますので、枝先を自然に起こしておきます。
これは芽起こしといいますが、下枝は得に注意して芽起こしをし、全体の枝の力を均等にするようにしましょう。
老樹になると樹形を維持するために補助的に針金かけをします。
どの樹齢でも共通したことですが、とくに老樹は日頃の肥培管理をしっかり行い、芽摘みや剪定で樹形を維持する気持ちでいてください。
各枝の力の平均を保つことが第一ですが、懐枝などの細い枝は風通しや光が届かずどうしても弱ってしまいます。
時々若返り枝が伸びてくることがあるので、樹形を乱すようであれば剪定や針金かけで対応します。
幹に曲がなく、比較的素直な種木は直幹や斜幹作りを目指した方が無難です。
この場合の針金かけは、幹が曲がらないように固定するために実施します。
アカマツやモミジなどはすこし模様をつけて優しい樹形に仕立てるのもよく、幹模様ができれば斜幹や文人作りなどにも作り替えることができます。
まず木肌に針金を沿わせて裏側の用土から針金を突き刺し、鉢底まで通ししっかり固定します。
まき幅は等間隔で、主幹の先までしっかりかけていきます。
強い曲のある素材を直幹作りにしたい場合は、あらかじめ矯正したい方向に指で何回か押し戻すようにして慣してから針金をかけます。
矯正したう部分はやや巻き幅の間隔を詰め、曲げる必要のない部分は巻き幅を広げて巻いていくように心がけてください。
枝数があり、やや幹模様にクセのある種木は模様木作りにするとよいです。
慣れないうちはどうしても曲が単調になってしまいますが、蛇形にならないように強弱をつけると面白いものができます。
ただ、ここが針金かけの難しいところで、個人のセンスもさることながら、より多くの作品をみて経験を積まなければなかなか納得できるものができません。
ポイントは、出来るだけ低い位置に一曲入れることです。
主幹だけでなく主要な枝にもしっかりかけることが大切で、左右、後ろから枝が突き出るように意識しながら枝の方向や位置を矯正してください。
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