スギ葉とはなにか

投稿日:2022/10/06

スギ葉とはなにか

本ページに記載の商品・サービスは広告を含むことがあります。

 

1. トゲのある葉を持つ植物

棘のある植物

植物の中には、植物体の一部に鋭いトゲを持つものがあります。

針のように鋭く尖った葉を持つマツやスギなどの針葉樹は、恐竜時代から生存する裸子植物の仲間で、シダ植物と同じく最も原始的な遺伝子を持つ陸上植物群の1つ。

独特の針葉の形状は、乾燥地や寒冷地での生育に適していて、針葉樹が多様化し繁栄した中生代初期は、このような環境であったことが関係していると考えられます。

かつては、花や実を付けて子孫を作る被子植物は、裸子植物から進化したものだと考えられていましたが、実際にはこの2つは遺伝子的に全く別の系統であるということが分かっています。そして現在、地球上の植物で最も多様性を誇る被子植物は、元々は白亜紀に出現した好湿性の下生え(草のようなもの)であったものが多様化したものであると考えられています。

ところが被子植物の中にも、野バラや長寿梅、ピラカンサなどのバラ科樹種の他、キンズやブッシュカンなどの柑橘類、ヒイラギ、ムレスズメ、タラノキ、アリドオシ、山椒など、鋭いトゲを持つ植物もたくさんあります。

これらはどちらも、「光合成のための初期の発生器官」という意味での葉としては、共通の遺伝子を持っていますが、針葉樹的な葉、広葉樹的な葉を作る仕組みでは全く異なる進化をしています。

広葉樹の場合は、鹿などの捕食者から身を守るために針状の葉を発達させたと考えられていて、茎や枝の一部が変形したもの(茎針)や、葉や葉柄・托葉の一部が変形したもの(葉針)など形態も様々です。

2. ヒノキ科の植物の分類

図1:針葉樹(球果目)の系統図の情報を抜粋して簡単にまとめた図

かつての植物の分類法は、形質や形態に基づいたもの(リンネ体系)が始まりで、その後もいくつかの分類体系が提案されましたが、進化の認識の高まりに伴って自然分類(系統分類)への志向が生まれ、1990年代からは被子植物を中心に、PCRとオートシーケンサーを用いたDNA解析による分類が進められました。シダ植物や裸子植物でも分子系統に基づく新しい分類方法が提案されています。

ヒノキとスギもかつてはそれぞれヒノキ科、スギ科と分かれていましたが、最新の分類ではスギの仲間もヒノキ科内(スギ亜科スギ属)に統合され、葉の形状は違えどかなり近縁な植物であることがわかります。

葉緑体のDNAを用いて針葉樹の系統進化を調べた研究(『針葉樹の葉緑体DNAの構造解析及び 系統進化に関する研究 』1995年、生物機能開発部遺伝分析研究室、集団遺伝研究室)によると、アスナロやヒノキ、ビャクシン類をヒノキ科、スギやヌマスギ(ラクウショウ)、メタセコイアなどをスギ科と分けた場合、この2つの共通の祖先種にはもともと針状の葉になる性質があり、鱗片状の葉になるという性質はヒノキ科特有の性質であると考えることができます(図1)。

ところが、鱗片葉を持つ共通の祖先種からビャクシンやネズミサシが派生した時に、鱗片葉から場合によっては針状の葉を作るようになったり、針葉しか作れなくなったりといった、不安定な元遺伝子(針葉になる遺伝子)形質が現れるようになったのではないかと想像できます。

コノテガシワの発芽一年生苗

コノテガシワの発芽苗の葉。成木は鱗片葉ですが、芽生えから2~3年は針葉を出します。

鱗片葉のヒノキの仲間の芽生えは針葉樹と同じ針葉であることは、針葉が基本で、そこから鱗片状の葉になるという仮説にも矛盾がなく、ヒノキの肥厚し扁平化した葉が、葉面積を広くして水分の保持や光合成効率を上げるための進化であるとも推察できます。

被子植物でも、ヒイラギやモミノキなど通常は葉にトゲを持つものでも、老木になると棘がなくなるものもあり、シンパクのスギ葉発生は、ストレスを受けた場合の防御反応として、遺伝子に刻まれた針葉の形質が一時的に現れた「先祖帰り」現象なのだと言われています。

3. スギ葉がでる原因

シンパクのスギ葉

通常は鱗片状の葉を持つ植物の中には、何らかの原因で突然針状の葉を作るものがあります。

特に盆栽愛好家を悩ませるのはシンパクのスギ葉(針葉)で、強い剪定や針金かけ、植替え、肥料不足や培養環境の悪化による樹勢低下など、生存の危機に関わるような大きなストレスがかかった時に、防御反応としてスギ葉を出すと言われています。

スギ葉を作る枝はいわゆる徒長枝で、勢いがあるために通常の枝葉よりも急速に枝を伸します。一度スギ葉が出ると、完全に元に戻るまでに最低でも2~3年かかりますが、鱗片葉に戻ったころには枝がかなり間伸びして、元の樹形に戻すことが難しくなってしまいます。

強い整枝と植替えを同時に行うとスギ葉になりやすいですが、荒木の最初の姿出しなど多くの枝を剪定する必要がある場合は、根もある程度切り込んで枝葉と根の量のバランスを取ったほうが、スギ葉発生のリスクは抑えられます。

4. スギ葉が出たシンパクの対策

たっぷりの日差しと水で培養

シンパクのスギ葉は、遺伝子の変異から起こる現象で、針葉をつくる指令を出す遺伝子情報が転写されることで生長点からどんどん発生します。

早く鱗片葉に戻すためには、この生長点に力を付けて代謝をあげ、正常な遺伝子に戻るよう促すことが1番の近道です。

そのためにはたっぷりの日差しと水で光合成を促し、樹勢をつけさせてあげるようにしましょう。

強い日差しは植物に適度な抑制をかけるので、余計な間伸びも抑えられます。

肥料は控えめに

スギ葉になった樹は、樹勢が乱れている状態なので、“たっぷりの日差しと水”を前提に、無肥料で管理するのがいいと言われています。

その考えから、通常の肥培スケジュールでも、春肥は控えめまたはスタート時期を遅らせて、新梢の勢いを抑えよう(スギ葉が出るリスクを抑えよう)とする方法が一般的です。

しかし、完全に鱗片葉に戻るまでに最低でも2~3年かかるとすると、その間全くの無肥料で育てるものそれなりのリスクがあります。

正常な葉を出させるためには樹勢を付けさせることも大事ですから、生育のために最低限度必要な量の肥料は与えたほうがよいでしょう。

ただし、この間に使う肥料はチッ素分が少なめでリン酸やカリウム分が充実したものを選ぶようにしてください。

枝葉の充実を目的とした松柏類や葉もの類の肥料は、NPKのうちチッ素(N)分が多めの下がり型タイプの肥料(玉肥やグリーンキングなど)が使われますが、チッ素が多いと新梢に勢いがついて、余計に徒長する可能性があります。

NPK比の中で、リン酸(P)が多めの山形タイプの肥料には、「東商のおまかせ」や「バイオゴールド」などがありますが、常用の肥料にリンカリ追肥をしてもいいと思います。

いずれにしても多肥は禁物で、春(5月頃)と秋(8月~10月)を基本に少ない肥料を生育状況を見ながら与えるようにしてください。

肥料の成分

枝葉の充実を目的とした松柏類の肥料はチッ素多め(下がり型)のものが一般的ですが、スギ葉発生中はチッ素分は控えめにした方がいいでしょう

強い手入れをしない

シンパクのスギ葉(先祖帰り)は、強剪定や根の深切り、強い針金矯正など過度なストレスを受けた場合に、生命維持のためトゲで防御した枝葉のうちに早く生長しようとする生理現象の1つです。

そのため、スギ葉が発生している間にまた強い手入れを行うと、またスギ葉になり、樹勢を落とす危険もあるので、強い手入れはできるだけ避けるようにしたほうがいいでしょう。

「スギ葉のうちは絶対に触るな」と言われますが、時々間引き剪定をして培養環境をよくしてあげたり、根詰りや根腐れを起こしているようなら植替えをしてあげる必要はあります。

また、スギ葉の出やすさは性によって異なり、枝葉の細い糸魚川性のものはスギ葉が出やすいのですが、やや葉に厚みにある紀州産シンパクは強い手入れをしてもスギ葉が生じることはほとんどありません。

シンパクの種類

糸魚川産のシンパク(左)と紀州産のシンパク(右)

軽い芽摘みはしましょう

基本的には、スギ葉になったら自然に戻るのを待ちますが、一度スギ葉になった葉自体が鱗片葉に戻るわけではなく、勢いよく徒長しながら木質化して先端部分から本来の鱗片葉を作るようになります。

そのため、完全に本来の葉に戻るまでにはある程度の間伸びは避けられず、結局枝として使えなくなるケースがほとんどです(徒長枝の性質を逆に利用して、スギ葉をあえて大事にして、幹の急速な肥大を図る方法もあるようです)。

スギ葉が生じた場合は手入れは避けるというのは広く言われていることですが、できるだけ間伸びを防いでおくためにも、軽い芽摘みをしておくことをお勧めします。

適度な抑制をしておくことで樹勢が段々落ち着き、間伸びを防ぎながら小枝も増やすことができます。

極端なものでは、通常の葉がでるまで出る芽(スギ芽)をどんどん摘み取っていたら、半年で全て鱗片葉に戻ったという話も聞きますから、放置するよりは芽摘みくらいはしておいた方がいい結果に繋がると思います。

また、勢いのある枝の基部にはだいたい胴吹きがあり、次第に鱗片状の芽を持つようになるので切り戻して作り直すことになります。

スギ葉の対処

左:生長点から鱗片葉に戻るので、間伸びが気になる場合は先端を軽く詰めておきましょう
右:間伸びした枝の元に胴吹き芽があれば、それを活かして枝を立て替えることができます

5. 関連ページ

 

コメント

この記事へのコメントはまだありません。