盆栽は植物への虐待行為なのか

更新日:2019/08/01

盆栽は植物への虐待行為なのか

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今、盆栽は生きた芸術として世界的な人気があり、国内でも趣味として始める若い世代が増えてきています。

しかし盆栽への関心が高まり情報が溢れる一方で、植物を強く曲げたり切断したりする行為を虐待と感じる人がいることも確かです。

愛情をもって手入れをしても、趣味や道楽の盆栽は植物への虐待行為であることは否めない事実。だからこそ、盆栽人としての心構えを見直す必要があります。

1. 植物には感覚がある

2018年12月。豪ラ・トローブ大学の研究者らによって、植物は触れられると成長が著しく低下することが突き止められました。

実験に用いられたのはモデル生物として重宝されている「シロイヌナズナ」。

学術誌「The Plant Journal」に報告された研究結果によると、植物は少しの接触でも大規模な遺伝的防御反応を起こし、繰り返し触られると成長も停滞してしまうことが分かったそうです。

自然界では植物が互いに近い距離で育つと触れ合う枝は伸びなくなりますが、このような防御反応は太陽光へのアクセスを最適化するためにあると考えられています。

これまでの世界的な研究では、植物は従来信じられたいたよりも遙かに多くの量子情報を処理していることが分かってきていて、例えば「記憶」や「選択」「予測」「思考」、さらには「痛み」の感覚さえも情報として感じているのだといいます。

物言わぬ植物は私たち人間にとって何も感じていないと思われがちですが、古代から生きてきた植物たちは豊かな感覚能力を備えていて、初歩的な知能さえ持っているのです。(参考引用:2019年5月10日Excite Japanニュース)

2. 「切断」「曲げる」「皮を剥ぐ」「彫刻」...盆栽は樹木への虐待

もし「痛み」や「記憶」の感覚を植物が持っているとしたら、私たち盆栽愛好家は植物にとって残虐極まりない恐ろしい存在でしかありません。

なぜなら盆栽として樹を作っていく以上は、剪定や針金整枝などは基本の作業であるからです。

取木をするにはまず樹皮を環状に剥ぐ必要がありますし、穴を開けて枝を挿したり、幹を割って彫刻を施したり、時には釘を打ち込んだりもします。

小さいことが良しとされるミニ盆栽では、本来なら大木となる筈の樹を豆サイズの小鉢に閉じ込めて永年育ててゆくのです。

この一見残酷ともとれる所業は、盆栽作りの一番の醍醐味でもあり、愛好家にとって樹を弄ることは技術と樹格の向上に繋がる大事なプロセス。

それだけに大きな作入れはやたらに出来ることではなく、自身が磨いた技術と審美眼をもってしっかり構想を練り、樹に充分力を付けさせてからいよいよ出来ることです。

3. 「接触」がもたらす盆栽の効果

盆栽は適度な接触によって枝の伸びが抑えられ全体が締まって良い樹になるという話は、昔から言われていました。

接触というストレスを与えることにより、植物内で成長抑制ホルモン(エチレンやジャスモン酸)が合成され、枝の伸びが抑制されたり葉が小さくなったりするのです。

また、接触のストレスによる反応は成長を抑えることばかりではなく、花芽が早くついたり枝が太くなるなどの反応も確認されています。

枝が太くなるのは植物の防御反応によるものですが、手で試し曲げするだけでも部分的に太くなってしまうことがあり、盆栽としては美観を損なうので注意が必要です。

そのため繊細さが魅力のミニ盆栽では敢えて小さめの鉢に植え付け、針金整枝はあまりやらないで鋏作りの補助的なものとして行うことが多いのです。

4. 盆栽を趣味にする人の責務

盆栽は、自然に生きている樹よりも寿命が長いという話を聞きます。

強風、落雷、落石、大気汚染などの自然災害や害獣・害虫被害などで枝を失い、幹が折れたりして枯死する樹があるのに対して、人の手によって管理されている盆栽は水や肥料不足の心配もなく、夏は日よけ、冬はムロにまで入れてもらえる。自然界では半世紀と生きられない樹がある一方で、200年300年と生きている盆栽もたくさんあります。

しかし、私たちが愛好しているミニサイズの盆栽は、小さければ小さいほど外部環境がもたらす影響が大きく、水やりや施肥、置き場所などの管理方法にはより慎重にならなければいけません。

本来大木となる筈の樹木を小さい鉢に閉じ込めて、枝を伸ばせば切り詰められ、何年もそのままの大きさを維持している訳ですから、樹にかかる負担は計り知れません。

私たちはそれを充分承知した上で、せめてその樹が毎年芽吹き元気にその小さい葉を広げることができるよう、最適の環境を全力で整えてあげる責任があると思います。

プチ盆栽を愛した市川三郎氏

全日本小品盆栽協会参事、日本豆盆栽連盟副会長等を勤めた故市川三郎氏は、自身のブログで「プチ盆栽は樹木の虐待である」と記しています。

市川氏のノートには下のような句がいくつか書き込まれていたそうです。

「我が命 一寸小鉢に閉じ込めて つらくは無いかと よくもいい」

「この子等は つらくはないか干支もすぎ 心痛めぞ 償いもせずに」

「大山の 神を恐れて僅かでも 挿して増やすは 詫びる思いで」

どれも自分のミニ盆栽や山野の植物に対する罪悪感や自責の念が込められた句ですが、それ以上に樹木への溢れる愛情を感じます。

過酷な環境で最適条件の提供は愛好者の責務だと話す市川氏でも、盆栽歴30年になってやっと盆栽の難しさが解ってきたと話ています。

水やりも、剪定も、針金かけも何回やっても至らないことがあり、学ぶべき事が絶えずあります。

植物と話が出来ない以上、盆栽達がなにを思うのか知る由もありませんが、盆栽をやるからには樹に寄り添い、探求し、常に優しい心で接していきたいものです。

コメント

やえ さん 2019年08月13日01時25分
キミさん、
昨年より某小品盆栽愛好会に入り教えを請うていますが、正直ミニサイズの木に強い針金を掛ける行為に多少の疑問を感じています。針金掛けて貰った樹の半分以上は枯れました(泣)
針金掛けを全否定はしませんが、先輩方の中には鋏作りに徹する方もいらして、そんな考え方もアリかなと思うこの頃です。
市川さんのブログ拝読しています。この句も何度も読みました。
樹たちには勉強させてもらう謙虚な気持ちで接してゆきたいです。
きみ さん 2019年08月13日10時19分
やえさんへ
悩む気持ちとてもよくわかります
鋏だけではどうしても甘くなってしまうので、針金かけもできるようにならないとですしね
針金も鋏も盆栽をやってくうえで大事なことですから、会の中でたくさん聞いて自分なりに消化して自分の盆栽をやっていけばいいと思います。

このページは最近UPしましたが、書き上げるまでに時間をかけ考えを巡らせました。
わたしも悩んだり情けなく思ったり悲しい気持ちになったりもしますが、盆栽は「趣味」なので、自分が楽しめればそれで良いんですよ多分^^;
それに、曲げてもらった樹が枯れるのはよくありますね、見ていて内心ハラハラすることもありますけど預けた以上はそういうことも覚悟して(汗)
嫌なら預けない、自分でやってやるぞと。
長い道のり、その時の気持ち大事にしながら謙虚な気持ちで楽しんでいきましょう
応援しています。
ともちゃん さん 2020年03月07日10時15分
私は切る,割る、曲げる事が盆栽と思ってこれまで来ました。

読ませていただきまして、
確かに樹木を虐待してきたことを突き付けられた思いです。

これまでに、何回も枯らしました。その原因はいろいろでした。
最初は水切れ、やがて寒害、切り込みすぎての焼け込み、そのうちに薬害、。
なんらかの原因で枯らした時には根を裸にして観察もしました。
よれよれになった樹を決して見限る思いはありませんでした。

かって弟に言われたことがありました。
「切る,割る、曲げる事」は可哀そうと思わないのかと

いま改めて「そうかも知れない???」と思ったりして、
こころ揺らいでおります。
きみ さん 2020年03月08日09時18分
ともちゃん さんへ
その人ひとなりに植物への愛情があれば他人がどうこういうことはないと思いますし、誰しも枯らせた経験あるので、それを無駄にしないぞという気持ちでいれば充分だと思います。
曲げたりするのは、盆栽をやっているならやらないといけない時はありますよね。「かわいそうだから」と切らない、曲げないでは盆栽にはならないですしね。
それにしても、虐待かとうかを議論するにはまだまだ植物を知らなさすぎるのかもしれません。よく研究して、最小限の負荷で創作するその最小限を見極めて、植物生理を理解しようとする探究心があれば大丈夫です(たぶん)。
ともちゃん さん 2020年03月08日19時06分
ご回答ありがとうございます。

>最小限の負荷で創作するその最小限を見極めて、植物生理を理解しようとする探究心があれば大丈夫です。

なんだかほっとしました。

しかし、その最小限がなかなかわかりません。
老爺柿の小品を作るために去年の3月に幹を立ち上がりから6CMぐらいで切断しました。
約1年後の2月半ばに新しい幹にする芽(域)より上の幹を削り直しました。
最初の切断口近辺は焦げ茶色に変色しており、明らかに腐り(枯れこみ)が入っておりました。
根伏せに生えた新しい幹への切り込み口までの1CM位の幹もほとんど同じでした。

切断時には切り口に癒合剤を塗り、さらにアルミホイルを張り付けております。
老爺柿は腐りやすいのでしょうか?
切り口は根切りで切断後、切り出しできれいに削り直しております。

何かいい方法がありますでしょうか?
きみ さん 2020年03月09日08時38分
ともちゃん さんへ

そういう風になったことがないので、明確なことは言えないのですが
癒合剤は殺菌効果のあるトップジンなどを使った方がいいと思いますよ

◆住友化学園芸 殺菌剤 トップジンMペースト 100g
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アルミホイルは確かに殺菌効果ありますが、植物の傷に直接貼るのはどうでしょうかね。。やったことないです。
アルミホイルの殺菌作用は、細菌などの細胞壁の塩基と金属イオンが結びついて生理活性阻害を起こすわけですが、その金属イオンが植物に悪い働きをしているかもしれないし、酸化してアルミニウムが溶け出せば生物全般によくないと思います。アルミホイルが黒くなっていたりしてませんか?

あと、ご存じかと思いますがロウヤ柿の根はあまり水を吸う効率よくないです。過水にすると根腐れしやすいですし、水分というのはウィルスや雑菌が吸収して活動するためにも必要なものなので、あんまり過湿にしないことがいいとおもいます。



※ロウヤ柿について今後ご質問などありましたら、下記ページ(ロウヤガキの育て方)など関連のページのコメント欄をご利用ください。
https://bonsai.shinto-kimiko.com/sodatekata/mimono/roya.htm
ともちゃん さん 2020年03月09日12時50分
いろいろ教えていただきましてありがとうございます。


これまで老爺柿の切り口の巻きがよくなかったので
癒合剤を塗った後にアルミホイルを貼ってみたのです。

4か月ほどたったものを剥がしてみましたら、
アルミホイルは黒くなっていませんでした。
切り口は巻いてはおりませんでしたが、腐ってはいないようです。

トップジンは使ったことがなかったので早速購入します。

たのしみです。

>あと、ご存じかと思いますがロウヤ柿の根はあまり水を吸う効率よくないです。過水にすると根腐れしや<すいですし、水分というのはウィルスや雑菌が吸収して活動するためにも必要なものなので、あんまり過>湿にしないことがいいとおもいます。
切り込んで出た芽はそのままにしておくと1年で50CMくらい伸びましたので、
てっきり水が多いほうがいいのだと持っておりました。

少し控えてみます。

ありがとうございます。
きみ さん 2020年03月09日15時54分
ともちゃん さんへ
先に説明すればよかったですが、ロウヤ柿は傷そのものは治らないです。雑木みたいに肉が上がるようなことはないですね。
そのままです。
なので、叩いた後は、その後伸びる芽のうち良い場所のものを芯として伸ばし、太らせて傷を目立たないようにします。枝が太ってきたら斜めに削り直し、自然になるようにします。