今は「苔盆栽」なるものや「苔玉」など、苔を楽しむ人が増えました。
盆栽においても、苔の役割は大変重要。
盆栽に苔を張ることで、鬱蒼とした森の自然の中で何百年も前から佇んでいる老樹の様相を持ち始めます。
この景観上の美観を高めるだけでなく、苔には植替え後の湿度の保持や、用土の流出、土の保全の役割も担ってくれています。
多すぎる苔は水はけを悪くしてしまったり反って美観を損ねることにもなりますが、同じ盆栽でも、幹元に苔を張るのとそうでないのとでは、漂う風格が格段に違ってきます。
一口に「苔」といっても実に沢山の種類が存在していて、専門家でも顕微鏡観察や組織検査などをして詳しく調べないとすぐには同定できない程です。
水しぶきのかかる場所や、乾燥した岩にコロニーを作る苔
苔の生える条件も様々で、乾燥した場所を好むものから水しぶきのかかる岩上を好んでコロニーを作るものもあります。
道路脇に生える苔
生息場所も広く、道路脇や庭の隅、畑や公園、地面や岩・コンクリート上に生えている苔から、標高1500~2000メートル付近の高山性の苔など、広い範囲に沢山の種類が分布しています。
涼しい気候を好む高山性の苔や、常に湿度を欲する苔は培養に不向き。
盆栽との相性を考えると、人里や雑木林に生えているような苔を選ぶといいでしょう。
私たちがよく見かける代表的な苔は広く蘚苔類に分類されていて、さらに蘚類(せんるい)・苔類(たいるい)・ツノゴケ類の3つに分けることができます。
蘚類は、地面から直立して生える直立性のものと、地面を這う匍匐性のものがあります。
蘚類の仲間には、スギゴケ科、ホウオウゴケ科、ギボウシゴケ科、センボンゴケ科、シッポゴケ科など日本国内だけで61科、約1000種が生息していると言われています。
蘚類は葉に主脈状の細胞群があるのが特徴で、直立性のスギゴケなどはミニチュアの樹のような形。
形や大きさはさまざまですが、一般的に乾燥に強くてカサカサと硬い感触があります。
盆栽にはこの蘚類が相性が良いようです。
苔類はどこか海藻を思わせる形状をしていて、組織は柔らかく、ジャゴケやゼニゴケのようにペタっと地面を這って覆います。
形や大きさは様々で、茎と葉の区別のある茎葉体の姿をしたものと、茎と葉の区別のない葉状体の姿をしたものがあります。
地面をべったり覆ってしまうのであまり見た目がよくないのと、用土の通気性が悪くなること、水はけが悪くなることから、盆栽では避けたい種類と言えます。
ツノゴケ類は、苔類のような葉状体の上に蒴(さく)と呼ばれる突起を出しています。
ツノゴケ類の蒴は、蘚類や苔類と違って動物のツノのような尖った形に突き出していて、蒴の出ていない時は葉状体の苔類のような姿をしています。
こちらも苔類と同様に、盆栽にはあまり見られない種類の苔です。
湿地は日陰に生えているような蘚苔類の他に、乾いた岩上や樹皮の表面に生えているものに地衣類があります。
盆栽では苔に対して「日ゴケ」と言ったりします。
和名には「○○ゴケ」などど付くものがあるのでよく苔の一種だと勘違いされますが、蘚苔類とは全く違った生態をしています。
見た目は透明感がなく粉っぽく、干からびた海藻のような形をしていて、苔に混じって岩の表面やサクラ・ウメなどの老樹の幹にくっついているのを見たことがあるかも知れません。
その存在感は、豊かで深い自然を思わせる苔とは少し違い、古く枯れた印象を受けます。
老樹に付くイメージから、主に松柏類などの幹に日ゴケを生やすことで古さを表現する事ができます。
盆樹の下に生している苔は見るだけで癒やされますし、盆栽の古木感や景色を演出してくれます。
苔には上で書いたようにいくつかに分類されますが、ゼニゴケなどの苔類は土の排水を損ね見た目もよくないので避けます。
盆栽には直立性で小さいギンゴケやスギゴケなどの人里の苔が向いていて、水はけもよく培養に適しています。
松柏類には日ゴケといわれる地衣類が幹に付着していると老樹の風貌が見えてきます。
カサゴケ科の小型の苔です。
茎の高さは約1cm程度で、葉は0.5~1mm。
日本全土の都会地から高山まで普通に分布しています。
胞子体は1cmくらいの柄に丸っこい蒴(さく=胞子体の頂端部の膨らんだ部分)が垂れ下がるような形をしています。
日当たりのいい場所から半日陰地まで庭土や畑、コンクリート上など至る所に、すこしシルバーかかった白緑色~灰緑色の群落を作ります。
スナゴケ:苔日記
ギボウシゴケ科の小~中型の苔です。
茎は直立性で3~5cmくらい。不規則に短い枝を出し、葉は全体に密につき星をちりばめた様です。
日当たりのいい湿った地上や岩上に群生し砂質土を好みます。
北半球の湿地帯から亜寒帯に広く分布していて、日本全国に普通に見られます。
カサゴケ科の小型の苔です。
ギンゴケによく似ていますが、葉の先が透明にならないところに違いを見つけることが出来ます。
茎の高さは約0.5~1.5cm程度で、先の尖った卵形の葉は1mm前後。
胞子体が見られるのは稀で、蒴は傾いてつきます。
本州から沖縄まで日本全土に分布していて、コンクリート壁や道ばた、岩上などに群落を作り、特に市街地でよく見られます。
ヒョウタンゴケ科の小型の苔です。
茎の高さは約3mm程度で地上部からはほとんど見えません、葉は5mm前後。
本州から沖縄まで日本全土に分布しています。
蒴は洋梨形で若い時は緑色ですが熟すと褐色を帯びてきます。
蒴の蓋が取れると大きなくちが開き、密に小さな棘をもった胞子が出てきます。
タマゴケ科の小型直立性の苔です。
本州から九州にやや普通に分布していて、半日陰から日当たりのいいところの湿った岩や土上に生育しています。
茎の高さは1~2cm程度で、胞子体は1~1.5cmの柄に球形のかわいらしい玉のような蒴がつきます。
雌雄異株で、雄株の茎先は盤状で少し赤みを呈しています。
胞子体はとても特徴的でかわいらしいので、盆栽と一緒にに苔も楽しめます。
スギゴケ科の中型の苔です。
北海道から九州に普通に分布していて、半日陰地から日陰地の湿った土の上に群落を作ります。
茎の高さは1~2cm程度で、細長く柔らかい葉は7~8mm。
胞子体は2~3cmの柄を持っていて、蒴は円筒形。蓋(帽)の先は長く尖っています。
出典:怠け者の散歩道
スギゴケ科の中型の苔です。
北海道から九州に普通に分布していて、半日陰地の湿った土の上に群落を作ります。
茎の高さは2~3cm程度で、乾くと縮れて様々に曲がる葉は7~8mm。
胞子体は2~3cmの柄を持っていて、蒴は円筒形。
雌雄異株で、雄株の茎の先に盤状の花葉が集まります。
ハイゴケ科の中型で横に這う性質の苔です。
盆栽では、乾燥ミズゴケのように植え替え後の乾燥防止として株元に張る用途でも使用されます。
日本全土に普通に分布していて、日当たり地の湿った地上や岩上などに群落を作ります。
茎は横に這い、長さは10cm程に伸びます。規則的に波状の枝を出し、葉は密につきます。
雌雄異株。
この種類は大きさや色に変化が多いようです。
苔は環境が整えば自然に繁殖しますが、植え替え直後に表面にあしらえばすぐに見た目がよくなりますし、灌水の時に用土が流れにくくなります。
苔は外で綺麗なものを採取したり、持ち込んだものを簡単に増やすことができます。
ただしむやみに採ってないけない所も多くありますからマナーを守って採取してください。
ゼニゴケの無性芽
苔の繁殖方法はいくつかあります。
よく知られる胞子で増える有性生殖の他、無性芽という「むかご」のようなもので増えたり、自分の体の一部からクローンをつくって増えたりします(栄養生殖)。
環境が整えば自然に増えるのは、この胞子や無性芽による繁殖です。
人工的に増やしたい場合は挿木と同じ栄養生殖による、蒔きゴケ法や移植法などがあります。
苔の葉の先端(成長点)を鋏で切り取り、そのまま用土の表面にスライドさせながら苔山ごと移して手でしっかり押さえます。
これを全体に繰り返し、用土の表面に敷き詰めます。
さらにその上から粒径の細かい赤玉土などを少し被せて押えておくと、灌水の時に苔が流れにくくなります。用土は次第に流れ落ちてなくなります。
移植法は苔を張った直後でも美しく仕上げることができるので、展示前の鉢合わせで植え替えが必要な時にはこの方法がいいです。
しっかりおさえておけばすぐに仮根が伸び、新しい葉が成長するにつれてより自然になります。
苔が安定しない間は灌水の時に取れてしまうので腰水をするか、鉢ごと水の入った容器にゆっくり沈めてドブ漬けします。
細かく切った葉の先端部分を撒く
移植法よりも自然になるまで時間がかかりますが、比較的簡単な方法です。
苔の葉の先端(成長点)を鋏で切り取り、細かくしたものを用土の表面にパラパラとまいて上から優しく水を撒きます。
灌水の度に苔が流れやすいので、始めのうちは腰水をします。
この蒔きゴケで増やした苔を別トレイで育てて常備しておき、植え替えの時に移植するのもいい方法です。