フジ(藤)の魅力
投稿日:2013/04/02 更新日:2022/07/22
フジ(藤、学名:Wisteria floribunda、別名:ノダフジ)はマメ科フジ属のつる性落葉木本。
「なつかしき(心惹かれる)色」の象徴として万葉集でも多く歌われていて、源氏物語の『宿木』には現在の藤棚仕立ての始まりと思われる話も残されています。
また、フジ蔓の強靱な繊維を利用して蔓かごや織物・染め物などが作られるなど、古くから日本人の生活と深い関わりを持っています。
鑑賞用として楽しまれるようになったのは江戸時代からで、園芸品種も作られるようになり、河内藤園(福岡)やあしかがフラワーパーク(栃木県)、白毫寺(兵庫県)、亀戸天神(東京都)、笠間稲荷神社(茨城県)など、樹齢100年~400年を超えるフジの名所が各地にあります。
庭木や鉢植えなど園芸的に楽しまれていますが、盆栽として作ってもよく、初夏を彩る代表的なつる物樹種として格別の存在となっています。
公園や名所には、フジのツルを高く伸して這わせたフジ棚があり、葉が茂る夏は避暑スペースにもなっています。
フジの特徴
フジは温暖な地域の日当たりのいい肥沃な湿地に自生が多く、長く伸びる地上部と同じく根も相当に長く地中を這う性質があります。
その根は空気を多く含む構造を持っていて、多湿地でも根腐れすることがないため、盆栽では腰水管理で夏の水切れ対策が取られます。
さらに土壌細菌(根粒菌)と共生して根に根粒を形成し、空気中のチッ素を効率的に吸収する「窒素固定」を行っていて、植物体の成長に大きく影響しています。
左巻きに絡まりながら伸びて木質化したフジの蔓
枝はツル状で、周りの樹などに巻き付きながら登り、樹冠に到達すると枝幅を広げて日照をほしいままに成長します。
これを利用して木材などで組んだ棚にフジ蔓をつたわせ、花の観賞と日よけを兼ねた「藤棚」やパーゴラを作る観賞方法がありますが、他の樹の生育を悪くすることから庭木として植えるのを嫌う人もいるほどです。
花期は4月下旬~5月頃。葉の展開からやや遅れて開花し、枝の先端に多数の蝶形花を付けた花序が垂れ下がります。
花色は紫から淡紫色のいわゆる「藤色」で、花序の長さはふつう30cm~60cm程度ですが、長いものは1メートル近くに達するものもあります。
フジの豆果と種子
豆果(サヤ)は扁平な狭倒卵形で長さは10cm~20cm近くになり、表面には短い毛が密生してビロードのような手触りです。
果皮は熟すると木質化して硬くなり、冬になって乾燥すると2片に裂け、それぞれがねじれて種子を飛散させる構造になっています。
素材として流通しているフジは接木ものも多くありますが、実生は発芽率もよく、足元が太くなって良い素材になりますから、ぜひチャレンジしてみてください。
フジの種類
フジ属の仲間は世界に6種が知られていて、日本に自生している固有種には本種「ノダフジ」と「ヤマフジ(別名:ノフジ)」の2種があります。
ノダフジは本州以南の全国に自生していますが、ヤマフジは本州西部以南から見られるもので、京都や奈良、滋賀には自生がないことから、古代にフジとして鑑賞されていたものはノダフジであったと考えられます。
通常は、実生をしても花が咲くまでに最短でも6~7年はかかりますが、花付きのいい枝を台木に接いで作られた素材も出回っています。
また、若いうちから花を咲かせる一才性の藤もあり、園芸としても愉しまれます。
ノダフジ(野田藤、学名:Wisteria floribunda)
鑑賞用に栽培される一般的なフジ。本州・四国・九州の温帯に自生があり、ツルは左巻きで葉は5~9対の小葉からなる奇数羽状複葉。
葉はやや薄く、新葉には少し毛がありますが成葉になると無毛になります。
ノダフジの幼葉と葉の付き方
開花期は4月下旬~5月頃で所によっては6月頃。花序の長さはふつう30~90cmで、花房の元から咲き始めます。
ヤマフジ(山藤、学名:Wisteria brachybotrys)
本州西部・四国・九州の温帯に自生があり、ツルは右巻きで葉は4~6対の小葉からなる奇数羽状複葉。葉裏には成葉でも毛があります。
葉はやや大型で厚く、花も大型。本種(ノダフジ)に比べて側小葉の数が少なく、花序も短いのが特徴です。
開花はノダフジよりやや早い4月~5月頃で、本種が細長い花房の元から咲くのに対して、ヤマフジはまとまった房状の花序を一度に咲かせる性質があります。
その他の園芸品種
ノダフジの白花品種
フジ属の中でも本種(ノダフジ)は花序が長くて観賞価値が高いため、藤棚向けに多くの園芸品種が生み出されています。
花付きのいい「一才フジ」や「八房フジ」の他、白花品種も人気で、「シロノダフジ(白野田藤)」やヤマフジの園芸種の「シロカピタン(白花美短)」「ジャコウフジ(麝香藤)」などがあります。
また花序が2メート近くになる「キュウシャクフジ(九尺藤)」は鑑賞用として有名で、各地に藤棚の名所があります。
花色の変わったものには、花の先端に紅の入る「クチベニフジ(口紅藤)」、開花が進むにつれて白色に近くなる上品な「アケボノフジ(曙藤)」、濃紫花の「コクリュウフジ(黒竜藤)」、斑入り品種の「ニシキフジ(錦藤)」など多くの品種が作られましたが、樹勢の弱さや栽培法が確立していなかったために、あまり普及しなかったものも多いようです。
また国外原産の品種では、中国原産の「シナフジ(志那藤)、学名:W. sinensis」や「アメリカフジ(学名:W. frutescen)」なども稀に栽培されています。
フジに似た花が咲くキングサリ(マメ科キングサリ属)の花
フジに似た別属の植物には、ヨーロッパ原産でキングサリ属の「キングサリ(別名:キバナフジ、学名:Laburnum anagyroides)」があり、黄フジとも呼ばれます。また、ナツフジ属の「ナツフジ( 夏藤、学名:Millettia japonica)」などもあります。
フジの主な樹形
フジを始めとするツル物樹種は、周りの樹に巻き付いた蔓が木質化して葉張りを広げ、その重みで枝が垂れているような樹形に落ち着きます。
特に沢筋や急流近くでは、崖から倒れかかったような樹形にこそ趣がありますから、立木のような樹形に作るよりも、半懸崖や懸崖に仕立てるとより自然で、花が咲いた時のバランスも取りやすくなります。
園芸店などでは台木に花付きのいい枝を継いで仕立てたものが出回っていますから、そのような素材はまず枝を下げて懸崖にすることから始めましょう。人工的に形を作ろうとするとどうしても不自然になりますから、必要に応じて「引っ張り」などで下方に誘引してください。
最初は弓なりになってしまいますが、葉や花の重みで段々と厳しく下がり、数年持ち込むうちに自然に幹や枝を振って形ができてしまいます。
立ち上がり付近に面白い模様が入っているものがあればそれが1番いいのですが、真っ直ぐの台木に高接ぎしてあるものは継いである箇所から枝を下げるようにしましょう。
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