針金掛け、針金整枝
更新日:2019/09/22
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針金掛け(針金整枝)は銅線やアルミ線を使って幹や枝に模様や曲をつけ、基本樹形を作るための整枝技術の1つです。
樹を短期間で自由に曲げることができるので、盆栽の樹形作りにはなくてはならないもの。
針金掛けは目的の幹模様を短期間で作ることができますが、針金を掛けて枝を曲げることは樹に試練を課すことになります。
センスや熟練度によって見た目も価値も大きく左右されるため、植物の生理的な知識や経験を重ねてこそ上達していくものと理解しておきましょう。
C o n t e n t s
- 針金掛けの始まり
- 針金掛けの目的と効果
- 針金掛けの道具
- 針金掛けの心得
- 関連ページ(針金の掛け方、樹種別の針金掛け)
1. 針金掛けの始まり
盆栽に模様を付けるための工夫は、すでに江戸時代前から行われていましたが、当時はシュロの皮や麻紐などで枝を引いたり枝の間に石や板を挟んだりして何とか形を作っていたようです。
針金整枝の原型が生まれたのは明治後期~大正にかけての杜松盆栽ブームの時代。
山取り素材が盛んに採取されていた時代、ハイネズの小枝に値札を付けるために巻き付いていた針金を見た関西の業者が、針金整枝を思いついたと盆栽技術大系に記されています。
これが東京に紹介されたのは明治の終わり頃で、目黒花壇苔香園(明治35年~大正9年)の園主で高名な盆栽愛好家でもあった木部米吉(苔香園米翁)氏に伝えられたと言われています。
針金の登場によって、それまで苦労して作っていた樹形作りが簡単にできるようになり、針金掛けは瞬く間に拡散。
一時は樹の性質を無視して極端に湾曲した姿や奇抜な樹形がもてはやされた時代もあったようですが、長い年月の経験や工夫で改良が重ねられたことによって技術も向上し、近年の自然盆栽の基本形となっています。
2. 針金掛けの目的と効果
針金掛けは樹形作りや部分的な枝の矯正の他に、生育環境の改善や生育調整にも大きな役目を持っています。
主な目的と効果には以下の点があります。
- ・基本樹形をつくる
- ・枝の矯正
- ・枝を適当に配って採光と通風をよくする
- ・枝の込み過ぎを解消し、病気や害虫が付きにくくなる
- ・サイズの維持、矮化(強い枝を下げると生育が抑制される)
- ・生育調整、花芽分化促進(梅、姫林檎など)
針金掛けは、本来長い年月の中で枝が下がったり、強風や積雪、落雷などで折れたり曲がったりする現象を人工的に科す作業。
針金で枝を矯正することで樹が老化し、花芽が分化したり小葉になったりと、盆栽作りをする人間にとって都合のいい効果がもたらされます。
針金掛けの植物生理
針金掛けは樹形作りの一手段だけでなく、盆栽作りにとって沢山のいい効果をもたらします。
まず挙げられるのが花芽分化の促進ですが、適した時期や方法でやらなければ反って逆効果となるため、植物生理を理解しておく必要があります。
図:成長段階によるC/N率の変化
植物の成長段階には主に肥大伸長をする栄養成長期と、子孫を残すために花や実を付ける生殖成長期があり、この花芽分化に大きく関係しているものにC/N率があります。
Cは主に葉の光合成で作られる炭水化物(糖)、Nは根から吸収されるチッ素を指していて、栄養成長が活発な若木ではNの値が大きく、C/N率は低くなっています。
自然界では樹が大きくなり枝葉が充実してくると地上部で作られるC(炭水化物)も増えてC/N率が上昇。老化が進むにつれ植物の成長が抑えられ、生殖成長すなわち、花芽分化が進みます。
窒素肥料を少なめにすることで花芽形成が促進されることは経験的に知られていますが、これは植物体内のC/N比率が総合的に上がるためです。
針金掛けはこの長い月日の植物生理を利用したもので、枝を曲げたり捻ったりすることによって葉で作られるC(炭水化物)の流出を抑えて枝に留め、老化を促して花芽分化や開花結実を早める効果があります。
これは花物や実物類に限らず、松柏類や葉物類においても幹の肥大や小枝の充実、葉の矮化などに関係していて、針金掛けの生育調整としての役割は整姿以上に意味のあるとこと言っても間違いではないでしょう。
3. 針金掛けの道具
高価な盆栽用の道具を持つ必要はありません。ホームセンターや金物屋など自分の手に馴染むものをきちんと手入れしながら使ってください。
針金掛けに最低限必要な道具は、針金、針金切り、ヤットコ(ラジオペンチ)の3つ。
針金は枝の太さに合わせて数種類の太さのものを用意し、作業を始めてから慌てることのないように準備しておいてください。
針金(銅線、アルミ線)
針金の太さを確認して買いましょう
市販されている針金は太さによって番号(#)があり、番号が大きいほど細くなります。盆栽店の他、ホームセンターやネット通販でも盆栽用の針金が市販されているので、適当な太さの針金を3種類くらいは揃えておきましょう。
小品盆栽では10番~24番(径3.2mm~径0.5mm)くらいのものを使い、幹や太枝、小枝で使う針金を使い分けます。ミニ盆栽なら17番~24番(径1.4mm~径0.5mm)くらいのものを揃えておけば充分です。
手持ちの針金では太さが足りない場合などは、針金を二重に掛けると強度が増し効きやすくなります。真柏や松などの太幹を曲げる適期にはやはり太めの針金でないと効かないので、必要に応じて調達してください。
盆栽で使う針金には、銅線とアルミ線の2種類があり、樹の特製や用途によって使い分けられています。
銅線
柏類や幹の固いものの針金掛けには、昔から弾力性が低くて整えた枝が元に戻る心配がない銅線が使われます。
価格はのアルミ線よりも少し高価なので、幹や太枝には太めの銅線を使い、小枝にはアルミ線を使うといったように使い分けをしてもいいです。
銅線は酸化すると黒く変色して樹に馴染み、美しく掛ければそのまま飾ってもいいくらいです。目立たないだけに外す時には苦労することも。
一度使った銅線は焼きなましをすれば何度でも再利用できますが、火をおこす必要があるので住宅事情により難しいことろがあります。
アルミ線
大きな盆栽や松柏類では現在でも銅線が主流ですが、そのほかの盆栽にはアルミ線が長宝します。
アルミ線は柔らかく反発力が少ない点で作業がしやすく、上級者から針金掛けに慣れない初心者でも比較的使いやすいものです。
また盆栽用に市販されているアルミ線は、黒やブロンズ色にコーティングしてありますから、巻いた後の見た目は銅線とそう変わりません。
針金切り
針金を切り離すための道具です。
支点から刃までの距離が短い分、テコの原理でよく切れますが、ペンチやニッパーなどでも代用が効きます。
針金切りが必要なときは、掛けるときよりむしろ取り外す時です。
きっちりかかった針金を手で外そうとすると幹を傷つけてしまうことがあるので、それを避けるために針金切りで針金を細かく切断しながら徐々に外すと失敗がありません。
ヤットコ(ラジオペンチ)
ヤットコは針金をつかんだりねじったりする道具で、工具でも使われるラジオペンチでもいいです。
針金掛けや樹の固定、鉢底網の固定など細かい加工をする時や、ジンシャリを入れる時に樹皮を剥く道具になったり、針金外しとしても使えます。
盆栽用でなくてもいいですが、狭い枝先にも入るように先の細いものを選んでください。
使い方に慣れない人はスプリングがついているものがお勧めです。
4. 針金掛けの心得
①樹形決めと不要枝の剪定
先に大まかな樹形を決めておくことは1番大事なこと。
技巧に頼った無理な矯正をせず、その樹の特徴をよく観察し、枝の位置や流れなどを活かした整枝が出来るようになれば完璧です。
樹形を決めておけば不要な枝も分かるので、これを思い切って剪定しておくことで、枝筋がはっきり見えるようになり針金掛けもしやすくなります。
いつまでも不要な枝を残したままにすると、役枝がいつまでも太らず、樹形作りも進みません。
松柏類などの木質部が硬いものは、不要枝も敢えて長めに残しておいて神(ジン)にしてもいいです。
②適期に掛ける
針金掛けの適期は松柏類とその他の樹種で時期が異なります。
適期を無視して強く曲げると曲げた所から枝枯れしたり、折れたりするので注意してください。
杉や杜松を除く松柏類への針金掛けは、木質部と形成層が密着している秋~新芽の前の時期に行うと負担が少なくできます。
一方、落葉樹や花物類や実物類の針金掛けは、生育期間中が適期で、梅雨の前後(6月~7月頃)が回復が早く負担を最小限に抑えることができます。
③健康な樹に掛ける
針金掛けは樹にかかる負担がとても大きく、弱っている状態で針金を掛けてしまうとさらに樹勢を弱めてしまいます。
針金掛けの時期を逆算して事前に肥培管理をしたり、植え替えすぐのものなどは翌年まで待ってから行ってください。
特に真柏は植え替えと針金掛けを一緒にするなど大きな負担を掛けると杉葉が生じやすく、同時期の作業は避けるべきです。
④傷を付けない
針金は癖がついたらすぐに外すものです。だれでも一度や二度は外し忘れて酷く食い込ませた経験がある筈ですが、針金傷はなかなか治らないばかりか枝の成長を阻害して枝枯れの原因にもなります。
特に樹肌も観賞される雑木類は一度傷が付くと盆栽の価値を著しく落としてしまうので、掛けっぱなしにしないことが盆栽人としての責務と考えておきましょう。
成長が遅い松柏類などは1年以上掛けたままの場合もありますが、枝幹の太りやすい雑木類や花物類は1ヶ月くらいで掛け直しが必要な場合もあります。
また桜や楓、紅葉、皐月、黄梅など樹皮が薄いものには、掛ける枝に接木テープを巻くか、針金に和紙やチューブなどを巻いてあげると傷が付きにくくなります。
⑤針金掛けの前は水を切っておく
折れやすい樹に対しては、針金掛けの前に灌水を控え水気を切っておく必要があります。水気を切ると枝がしなりやすく、折れにくいのです。
特に生育期で湿度の高い時期は枝が裂けやすくなっているので、充分気をつけないといけません。
水を切ることで失敗が少なくなり、作業効率に差がでるので実践してください。
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一言で針金掛けといっても、樹種によって作業時期や作り方が違います。また、若木か古木かで意味が異なるので、自然樹の姿や植物生理を念頭に入れた整枝が必要です。